彼の扱いを一番心得ているのは、この私だ。
「しょーちゃんアイス食べながら帰ろう?」
「勝手に食べればいいじゃないですか」
「一緒に食べるからおいしいんだよ」
「それはただの勘違いですよ」
傍から見ればあまり仲良くない二人が言い合いをしながら帰っているように見えるだろう。
しかし私たちにとってはこれが日常茶飯事なのだ。
私が彼に絡んで、彼はドライに返す。
そんなやり取りをもうどれくらい続けて来ただろうか。
この高校に入学してから出会ったのに、一年足らずでここまでの関係を構築できた私はすごいと思う。
荒井昭二くん。同級生の男の子。
いつも俯いていて、その前髪が目元を隠してしまうから、一見怖い印象を受ける。
でも話しかけてみると落ち着いた物腰と丁寧な口調で、見た目に反して好印象だ。
そんな彼が、私には妙に棘をちくちくと刺してくるような物言いなのである。
ほかのクラスメートにはそんな風に言わないのに。
「そうやってぼーっとしているから零すんですよ」
「あ!ほんとだ」
そんなことを考えていると、彼がじろりと私とアイスを睨んでくる。
思ったより溶けるのが早く、指摘された通り危うく手や道路に落としてしまうところだった。
「しょーちゃんもどうぞ」
「要りません」
「溶けてないところあげるからさ」
「そういう問題ではありません」
「よくばって大きいの買っちゃって、食べきれないからさっ」
早くしないと溶けちゃうし、とダメ押しすると、彼はあからさまに大きなため息を一つ吐き出した。
「はい、あーん」
「自分で食べます」
「いいから」
「止めてください」
「溶けちゃうってば!」
「早くスプーンを空けてくれれば済む話です」
「しょーちゃんのためのひとすくいなの!」
「………」
今度はため息に加え、苦虫を噛み潰したようなしかめっ面で私を睨みつけている。
そんな視線を全身に受け止めながら、アイスをのせたスプーンを彼の口元に運ぶ。
正直スプーンを渡そうかそのまま食べてもらうか葛藤の嵐だったが、嫌ならスプーンを奪い取るだろう。
恐る恐る運ぶ私(のアイス)が待ちきれなかったのか、彼は一歩踏み出してぱくりとアイスを口に入れた。
(…あ、このまま食べてくれた)
ちょっと意外だった。
人通りのあるところで必要以上に絡むと、本当に不機嫌になってしまうことも珍しくない。
この前は『あなたは周囲の人の目を気にした行動ができないほど幼稚なんですか。もう少し考えてから行動に移してください』と説教されたのだ。
だから今の行動はちょっとお気に召さないかな…と思ったのだけど。アイスを食べたい気分だったのだろうか。
「…何にやにやしているんですか。気持ち悪いですよ」
「嬉しいんだよっ」
「はあ…あなたは理解できません」
「しょーちゃんと一緒にアイス食べながら帰れるのがさ!」
「………」
ふざけたことを言わないでくださいくらいの返答があると思ったので、沈黙が続いたことにどきっとした。
今日は機嫌がよくなかっただろうか。
心配になって思わず振り返ると、彼は私をじっと見つめていた。
さっきの睨むような迫力はなく、ただ純粋に見つめているようだった。
何だかんだ口では悪態をつくけど、私が粘ると折れてくれるし、本当にさりげなく気を遣ってくれる優しい一面もなくはない。
今日も結局アイスを買って、食べるところまで付き合ってくれた。
彼の本心はわからないけど、彼の棘のある言葉もきっと本心なのだ。
その棘の奥の奥に、やわらかい彼のもう一つの本心があるんだ。私はそう信じている。
こうして一緒に過ごせることがその証拠だと思いながら。
ところで黙り込む彼はいったいどうしたのだろう。
アイスが溶け切るとまた怒られてしまうと思い、溶けかけた部分を一気に口に頬張る。
そんな私の所作を見て、今日何度目かの盛大なため息が繰り出された。
私を見つめていたその顔は脱力したかのように緩み、呆れ顔に変わっていた。
「…本当に、あなたは子どもですね。鏡を見ながら食べるか、寒くなるまで我慢したらどうですか」
それはきっと、私のアイスの食べ方を指摘しているのだろう。
何せ結果的に半分以上溶けてしまったのだ。
トリプルにしなければ!と訴えようとした私の前に、彼はずいっと進み出ると、右手が不意に伸ばされ私の口元をなぞった。
そしてその指を、バニラアイスの付いたその指を、彼は口に含んだ。
「……!!!」
口にアイスを付けっぱなしでいたことより、彼のその一連の行動に、驚きと恥ずかしさが一気に沸き上がった。
私のリアクションを見てか他の思惑があるのか、彼は珍しくにやりと口角を上げている。
「これ以上汚されては堪りません。早く食べ切ってもらえませんか。いつまで経っても帰れませんし」
ふっと表情をいつもの不愛想に戻し、ぷすぷすと私に小さな棘を刺してくる。
彼に冷たくあしらわれるのはすっかり慣れているのだけど、こんな風に予想外の行動に出られるものだから。
悔しくも、どきどきさせられてしまうのだ。
冷たくあしらうのが鉄則
(でも、規則に載っていないことは対応できません!)
title by 確かに恋だった 666