一緒にいたいだけですよ、他に理由がありますか



放課後、彼氏である昭二と校門近くで待ち合わせ、並んで歩き始める。
家のある方向が同じなので、出来るだけ毎日、途中までは一緒に帰るようにしているのだ。
でも分かれ道に着いてしまうのが惜しくて、いつもささやかな抵抗で極力ゆっくり歩くようにしている。
そんな私の気持ちを察してか、昭二は毎回文句を言わずに付き合ってくれる。
ちょっとブランコ乗ってこうよとか、喉乾いたからジュース飲もうとか、様々な理由で足止めする私を決して蔑ろにしない。
…昭二も同じ気持ちでいてくれたらいいのに。
そんな小さな願望を胸に抱きつつ、今日も道沿いのベンチに並んで腰掛けた。

何だかんだ、こうして話し始めると昭二もノリがいい。
クラスでの出来事とか、宿題の話とか、その日あったことを細かに報告してくれる。
昭二の話は、まるで私がその場にいたかのような感覚にさせてくれるから、毎日楽しみにしているのだ。
彼の視点から語られる様々な物事は、いつも私に新鮮な刺激を与えてくれる。
昭二のことをまた一つ知ることができる喜びもあり、いつまでもそうしていたくなってしまう。

「…貴女は、いつも楽しそうですね」

前から思っていたのですが、と彼は言う。
付き合っているのだから当然と返すと、そうではないと珍しく口ごもった。

「人はその日ごとに感情の起伏があります。今日はマイナス思考だとか、何に対しても笑いやすいとか、怒りっぽいとか。けれど貴女はいつも同じだ」
「同じ?」
「とても……楽しそうに笑っている。嫌なことがあったと話してきても、直後にはいつもにこにことしている」
「さっきも言ったけど、昭二といるからだよ?好きな人と一緒にいられるのに、楽しくないわけないよ」
「………」

昭二が僅かに目を見開く。
今日は彼の珍しい一面がたくさん見れる日だ。
そんな要素もまた、私を笑顔にさせるのだけれど…。
昭二は、そんなことないのかな。

座り込んでそこそこの時間が経ってしまったので、そろそろ帰らなくちゃと立ち上がる。
すると隣から伸ばされた手が、私をその場に繋ぎ止めた。
その手の主は俯いたまま、しかし力強く私の手を握っている。

「……昭二?」

私の心臓はどきどきと大きな音を立てている。
手を繋ぐことなんて滅多にないから、それ自体とても緊張するのに。
それが昭二からなんて、嬉しさと恥ずかしさで何も考えられなくなってしまいそうだ。
彼の手は少しひんやりとしていて、それがひどく心地よく感じられた。

「………」
「…どうしたの?」

何か思うところがあるのだろうか、少し不安になりながら尋ねると、彼はそのままの姿勢で呟くように答えた。

「……もう少し、話しませんか」

どきん。
また心臓が高鳴る。
普段は私が言う台詞が、彼の口から紡ぎ出されるとは。
願ってもないという嬉しさより、昭二の意外な言動の数々に一種の戸惑いと緊張が勝っていた。
とりあえず立ちっぱなしでは埒が明かないので、もう一度ベンチに座り直す。
ちらりと隣の彼を見やると、僅かに頬が赤くなっているような…。

「どうしたの?」

先程と同じ問いを繰り返す。
繋いだままの手に再び力が込められると、昭二は小さく呟きながら顔を逸らした。



一緒にいたいだけですよ、他に理由がありますか



私と同じ気持ちでいてくれたこと。
こうして自分から行動に移してくれたこと。
昭二の素直な気持ちが本当に嬉しくて、私は心からの笑顔で頷いた。



title by 確かに恋だった 1900



EHL.