君がいた残夢に囚われて



私が新堂さんの練習に付き合い始めてから、数週間が経過していた。
はじめは勝手がわからず迷惑をかけてしまったけど、一週間もすると一連の流れがわかってきて、最低限のことは問題なくこなせるようになってきた。

「新堂さん、給水しましょう」
「おう、サンキュ」

タオルとペットボトルを渡すと、乱れた呼吸を整えるように大きく息をする新堂さん。
つらそうだけど楽しそうで、そばで見ているだけで元気になる気さえしてくる。
土日も時間を合わせて練習をしているので、今のところは毎日顔を合わせていた。

しかし一か月が経とうという頃。
私は風邪を引いてしまったのだった。



『…すみません、熱が出てしまって。新堂さんに移してしまったら申し訳ないので…』

そんな消え入りそうな声で電話がかかってきたのは、夕飯も食べ終わり落ち着いた頃だった。
電話番号を交換してから初めての連絡。
柄にもなく緊張しながら取った電話から聞こえたその声に、表情が容易に想像できて、思わず笑ってしまった。

『大丈夫だ。まずはちゃんと治してくれ。俺のことは気にしなくていいからよ』
『すみません…』

何となく声が掠れている気がする。
熱だけでなく喉にも来ているのだろうか。
早く休んでもらわなければと長話になる前に電話を切ると、思わず大きなため息がついて出た。
スマホを持っていた手は、微かに冷や汗をかいていた。



その翌日。
前日の雨は長引くことなく、朝から晴れ間が広がる。
あいつは多分練習中の雨にやられちまったんだろうな…。
声をかけた翌日から、欠かさず練習に付き合ってくれていた。
昨日も小雨だからと、雨具を取りにいかず俺のランニングを最後まで見届けていた。
一生懸命で、真面目で、でも少し抜けている。
見ていて飽きなくて、でもその姿に俺も感化させられる。
ライバルでなくてもこんなに刺激をもらえるもんなのかと、少し驚いていた。

そんなことを考えながら校門で立ち止まる。
数分して、思わず独り言を漏らしてしまった。

「……あいつ、今日休みだって…」

昨日直接連絡をもらって、今日の朝もそれを認識していたはずなのに。
放課後になると、校門の近くで待つあいつが思い浮かんで…。
まだ出会って一か月くらいしか経っていないのに、あいつと練習するのが当たり前になっている。
それだけ頑張ってくれているというのと、自分の中で存在が大きくなって…

「ああもう、何考えてんだ、俺は」

自分の頭に浮かぶ考えを振り払うように準備体操をすると、足早に練習を始めた。

その後もことあるごとにあいつの姿が浮かんで、普段より早く練習を切り上げてしまった。
給水するときも、タイムの結果を分析するときも、バインダーへの書き込みでも…。
練習が終わったらメールしてみるか。
自分の中の様々な気持ちを断ち切るように、メールを口実にして考えることを止めた。

こんなにも練習が疎かになってしまうくらい、あいつが浮かんでしまうなんてな。
我ながら情けない限りだ。
恥ずかしいようなむず痒いような胸の内を抱えたまま帰路に着いた。



EHL.