ふたりきりの保健室



「ごめんね荒井くん…」
「謝らなくても大丈夫ですよ。僕、保健委員ですから」

同じクラスの保健委員ということで、荒井くんに付き添ってもらい、保健室に来ていた。
授業中ひどい眩暈に襲われ、先生から少し休むように言われたのだ。
一人では心許ないということで、先生は保健委員の荒井くんに声をかけた。
自分一人で大丈夫、と思ったけれど、実際に廊下を歩くと意思に反して足元がふらつき、まともに歩けなかった。
<転んでしまったら危険です。手を貸して>と、そんな私を見た荒井くんが手を差し出してくれる。
一瞬羞恥で躊躇したけれど体調の悪さが勝って、私は素直にその手に頼ることにした。
教室を出てから保健室のベッドに横になるまで、荒井くんはしっかりと手を握って、ゆっくりと横に付いて歩いてくれた。

保健室に着き開口一番謝罪したのだが、それが役目だと荒井くんは受け流す。
とりあえず椅子に座ったけれど、目だけでなく頭まで回っているようで、目の前の机に突っ伏してしまった。

「…つらそうですね」
「ちょっと……今…ひどい」

私の途切れ途切れの言葉を聞くと、荒井くんはベッドに向かっていく。
少しして私の真横まで来ると、屈んで私の目線に合わせながら言った。

「ベッドで横になったほうがいいですね。座っているより早く良くなると思います。起きられますか?」

つらいときに申し訳ないですが…と声のトーンを落とし呟く荒井くんに、だいじょうぶ、と掠れる声で返答した。
再び差し出される手を握って立ち上がろうとすると、足元がふらつき転びそうになってしまう。

「……!」
「…っ、大丈夫ですか?」
「ご……ごめん…」

荒井くんは咄嗟に、傾いた私の体を握っていた手で支えつつ、もう片方の手で抱き寄せるようにして、私を転ばないように助けてくれた。
眩暈のひどさから、早く退かなければと思うのに、却って彼に体を預けてしまう形になってしまう。

「大丈夫ですから」

握る手に力を込め、荒井くんはすぐに動かなくてもいいと私を落ち着かせる。
体勢が体勢だから、耳元で囁くように言われて、体調の悪さより緊張が勝るようだった。

「……もう歩ける、ありがとう…」

きっと真っ赤になっているであろう顔を見られないように俯くと、距離の近いままベッドまで連れていかれた。
広げられた布団をかけてもらうと、一気に安堵感が全身を包む。
そんな中、荒井くんの手の少し冷たい温度が、触れられたところに残っているようだった。

「嫌じゃなかった…?」
「何がです?」
「寄り掛かっちゃったから…」

ごめん、と再び謝罪すると、荒井くんはわずかに口角を上げた。

「嫌ならはじめからしませんよ」
「……!」

嫌じゃないってこと…?
嫌じゃないって…。
荒井くんの返答に困惑していると、真顔に戻った荒井くんが催促してきた。

「早く休んだ方がいいですよ。深呼吸して落ち着くといいらしいです」
「あ……うん、そうだよね」

挙動不審になる私に気づいてか、なんとなく顔が笑っている気がする。
…さっきあんなことがあって、すぐに落ち着くわけがない。
それでも誰かがそばにいる安心感からか、まもなく意識が遠のいていく。

眠りに着く直前、頭を撫でられたような気がした。



EHL.