鍵の掛けられた音楽室



<放課後になったら、音楽室においで>

そう言われるがままに、私は音楽室に向かっていた。
部活へ向かう生徒たちの喧騒を横目に、吹奏楽部の部員がいるのでは…と、疑念が浮かびつつ。
あまり人の多い渦中での約束はしたことがなく、腑に落ちない気持ちで廊下を歩く。

音楽室のドアの前まで来ると、楽器の音や話し声が一切聞こえないことに気づいた。
今日は部活ないのかな…?
そう思いながらドアに手をかける。
中に人がいるかもしれないと、音を立てないようにそっとドアノブを回していると、背後に人の気配を感じた。

「………!」

叫び声が喉まで出かかったところで、後ろの人が伸ばした手に遮られる。
心臓をバクバクさせながら振り返ると、そこにいたのは人差し指を口に立て、ウィンクする男。
私が約束していた相手だった。

(……静かに)

未だ心臓の落ち着かない私の肩を抱きながら、彼は耳元でそう囁き、室内へと入った。



「もう、何で脅かすのよ」
「驚く君の反応が見たくてね」

目の前の男はからからと笑っている。
その姿を腹立たしく思いつつ、見とれている自分もいた。
頬を膨らませる私のそれを手のひらで包み込むように触れると、目を細め穏やかな表情に変わる。
そんな彼の表情も、私の視線を釘付けにした。

無音の音楽室に、私と彼の二人きり。
少しずつ距離が縮まっていく。
目を閉じた私の頬に、彼の唇が触れる。
何度も何度も、やわらかく熱が伝えられる。
それが口元に到達したとき、私は我慢できず自分から彼の唇を求めた。
両腕は自然と彼の背中に回っていた。

「ふふ、焦っては駄目だよ」
「だって」
「時間はたくさんあるんだからね」

その口はにやりと釣り上がり、人差し指で私の唇を塞いだ。
焦らされ悶々とする私をからかうように。
彼のシャツをぎゅっと握り締めると、対照的にゆっくりと頭を撫でられた。

「大丈夫、今日の音楽室には誰も来ないよ」

意味深に笑みを深めると、腰を抱き寄せ、鼻を触れ合わせる。
それはまるで彼と一体になるかのようで、これから起こることを想像する余裕もなく、私はその感覚に沈んでいった。



「どうして音楽室に誰も来ないってわかったの?」

乱れた前髪を整えながら、隣の彼に問い質す。
部活もあるし来ないことはまずないのでは、何か仕掛けたのでは、と気になっていたのだ。
涼しい顔で歩く彼は、得意げに笑いながら私を見ている。

「今日は吹奏楽部の練習が休みだからさ」
「…どこでそんなこと知ったの」
「顧問の先生と部員の子が話しているのをたまたま見ててね」
「………」
「たまにはああいうのも、いいだろう?」

目を伏せ、流し目気味に私を見やる彼は、先刻見た色っぽさを残していて、顔に熱が戻るのが自分でもわかった。

「ふふふ、恵美は可愛いなあ」

…しばらく、放課後の音楽室には近づかないでおこう。



EHL.