とある冬の日



原っぱの上に敷かれたシートに座り、木々の葉が擦れ合う音を、目を閉じて堪能する。
周囲に人はおらず、耳に入るのは風に揺れる草木の音ばかり。
…それもそうだ。
いくら晴れているとはいえ、こんな真冬の公園でピクニックをする人はそういないだろう。
言い出したのは私。
そんなわがままに振り回される可哀想なお相手が、私の膝を枕にして寝そべっている。

普段微笑みを絶やさないその顔は、寝ているのか事切れているのかわからない。
髪が風にそよいでさらさらと流れていく。
そっと頬を包むように触れてみる。
冷蔵庫のものと同じくらいに冷たい。
心なしか唇も青みがかっているし、もちろん顔色は血の気がない。

しんじゃったかな。
好いている相手が自分の目の前で、というのは本望だと思う。
さすがに自分の手で最期を、なんて思想は持ち合わせていないけれど。
離れているより、隣がいいな。

どうにか背中を折り曲げ、唇同士を触れ合わせる。
それはひどく冷えていて、人間の身体とは思えないくらいだった。
顔を離していくと、後頭部が冷え切った手に抱かれ、再び唇が触れた。
温かな舌が私の唇を撫でる。
じんわりと広がる熱に、唇が痺れるような感覚がする。
お返しと言わんばかりに、彼にも同じようにしてあげると、冷えた感触がしばらく舌先から消えてくれなかった。

「起きてたの?」
「好きな子がキスしてくれたからね」
「おはよう、王子様」
「おはよう、愛しいお姫様」

私が恥ずかしさを堪えて選んだ言葉を平気で乗り越えるように、彼はすらすらと口説き文句を言ってのける。
口では彼に敵いそうにない。
生気のなかった顔はいつもの微笑みを湛え、眠気からか寒さからか、瞼を重そうに持ち上げて私を見つめている。

「しんじゃったかと思ったんだ」
「恵美にころされるなら本望かな」
「いやだ、私そんな願望ないから」

そんな他愛ないやり取りをしながら、彼はゆっくりと上半身を起こしていく。
そして私に向き直ると、じりじりと距離を縮めてくる。
抵抗なく彼の抱擁を受け入れると、冷えた首筋に温かな吐息がかかって、思わず身をよじらせた。

「あったかいね、恵美」
「望はつめたい」
「恵美も冷たいよ、こことか」

そのまま首に口付けられて、反射的に声が出てしまった。
外なので音量は抑えられたけれど、さすがにここでは恥ずかしい。

「可愛い」
「ここ公園だよ?」
「誰も来ないよ」
「あっちに散歩してる人がいるよ」
「………」

にっこり笑顔を顔に貼り付けてこちらを見ている。
そんな彼の手を握り、その冷たさに驚きつつ、私は彼に提案した。

「うち…来ない?」
「断る男はいないと思うよ」
「まずは体をあっためてから、ね」
「我慢できるかな」

再び首筋に口付けられる。
その言動ひとつひとつに、不覚にも鼓動が早まってしまう。
…悔しい。
期待してしまう自分がいる。
立ち上がりシートを片付けながら、私は彼の方を見ることができなかった。

「まずは温かいコーヒーが欲しいな」
「はいはい」
「次は恵美で」
「…はいはい」

否定しなかった私の手に指を絡ませ、彼は至極嬉しそうな顔で先導した。

「でも…冬のピクニックはしばらくいいかな」
「どうして?」
「恵美にくっついているだけじゃ足りないからさ」

一転、流し目で不敵な笑みを浮かべ私を見る。
…確かに、毎回こうされてしまったら私の心臓も持たない。
素直に頷いた私の手をぎゅっと握りながら、早く早くと子どものように私を引っ張った。



EHL.