「ね、恵美」
「………んー」
「ねえってば」
「聞こえてるよー」
リビングのソファを独り占めし、横に寝転んでスマホをいじる私。
そんなソファにもたれ掛かりながら、テレビを見ているはずなのに私を呼び続ける彼。
私の目線は、さっきからずっとスマホのアプリゲームに釘付け。
彼の声は聞こえているから、とりあえずの空返事をし続けている。
しかしそんな私の態度が嫌なようで、彼はたまに背中でソファを押してくる。
「ソファずれちゃうよ」
「だって恵美が無視するじゃないか」
「返事してるじゃない」
「むう……」
むう、だって。
子供みたいでかわいい。
そんな彼の呟きも、テレビと私のスマホのタップ音に消えていく。
スマホの中では、ボス敵との熱戦が繰り広げられていた。
「………」
「………よしっ」
ボスを倒すと、思わず小さくガッツポーズをしてしまった。
彼の声掛けが適当になってしまうほど熱中してしまったが、そうでなければクリアできなかった。
ほ、と息を吐き、進むストーリーに心躍る。
その時だった。
「………っ!?」
目の前にあったスマホがない。
今、目前にあるのは望の顔。
心なしか眉頭が寄っている。
頭上でクッションのぽす、という音が聞こえ、スマホがそこに置かれたことを認識した。
「ちょ、」
思わずクッションのスマホに左手を伸ばすと、彼の右手がそれを拒んだ。
私の左手に指を絡め、クッションにうずめる形になる。
その手にスマホの感触を感じると、ソファが小さく軋む音がした。
彼が私の右足に跨り、馬乗りのような格好になっている。
「の…望?」
彼の名前はすぐに張りつめた空気に消えていった。
ソファの音以外、何も耳に入らない。
テレビが消されていたことも気づかなかった。
私はただ目の前の彼の瞳を見つめ返すことしかできない。
はじめよりさらに顔をしかめているように見える。
「お…怒ってる…?」
「………」
「ご、ごめんっ」
「………」
謝っても、彼はうんともすんとも言わない。
どうしようと私が頭を回転させ始めた時。
彼の空いていた左手が、私の頬を包み込んだ。
そのぬくもりに、行動に、油断していた。次の瞬間………
そんなことよりキスをしよう?
最後に見えた彼の顔は、心なしか微笑んで見えた。
どうして笑っているのだろう?
浮かんだ疑問をすぐ打ち消すように、彼の唇が私のそれに触れる。
驚く私をさらに弄ぶように、熱が口内を侵し、理性が薄れていく。
気付けば私の右手は、彼のシャツを弱々しく掴んでいた。
title by 確かに恋だった 2018