「六幻!」
破壊と悲鳴の音だけが存在する空間に、静かながらも威圧のある声が響き渡った。
「災厄将来・界蟲『一幻』!」
漆黒に光る日本刀が横一閃に空気を斬り、瞬間無数の界蟲がそこから踊り出でる。放たれた界蟲は一直線に破壊活動を続けるAKUMAへと襲い掛かった。ドンッ!という鈍い音が周辺で鳴り、塵埃が天井まで立ち昇る。それが前方を隠し、神田は目を凝らしながら残りのAKUAMの姿を探した。
「ユウ、上!」
いつもとは違う、偲月の大きな声に神田は反応した。反射的にそこから飛び去りながら視線を上へと向けると、それとほぼ同時に天井が砕かれ瓦礫の山と共に新たなAKUMAたちが現れた。チッという舌打ちの音が轟音の中で静かに響く。
「客は!?」
「探索部隊の人達が逃がしてくれてる」
少し遅れて駆けつけた偲月が神田の問いに冷静に返す。互いの背を預けて言葉を交わし、ふたりは意識を周囲に集中させた。彼等を囲むようにして現れたAKUMAは四体。姿からしてレベル2にはまだ及んでいないようだが、それでも形態からして相当な人数を殺しているらしい。カチリと、構えた六幻が鳴る。
「偲月、いけるか?」
「これくらいなら、大丈夫」
力強く頷いた偲月を見やって、神田は跳躍する。不意を突かれたAKUMAが一瞬彼の姿を見失ったその時、AKUMAの頭上から六幻が一閃された。真っ二つに切り裂かれたAKUMAは不気味な機械音を立てながら崩れ落ちる。それを確認する間もなく、神田は次のAKUMAへと攻撃を仕掛けはした。仲間が倒されたことに気づいているのかいないのか、残された総てのAKUMAは一斉に神田へと血の弾丸を放とうとした、が。
「イノセンス、発動」
時を止めるような静かな声が響いた瞬間、AKUMAの動きがピタリと止まる。
「…眠れ」
偲月の灰色の瞳が鈍く光ったと同時に、ギギギギギ…という油の切れたブリキが軋る音がした。そしてAKUMAは為す術も無いまま糸の切れた操り人形の如く地に倒れ伏す。それが、偲月のイノセンスによりAKUMAが破壊されたという合図だった。
「今日は早かったな」
周囲にもうAKUMAの気配がないことを確認し、六幻を鞘に納めながら神田が言った。偲月のイノセンスの能力は「解放」。AKUMAに取り込まれた魂と会話・解放することで、内部からAKUMAを破壊する。寄生型としては最も特殊なタイプのひとつで、AKUMAと闘うイノセンスは偲月の身体に溶け込んでいる。
確かに戦闘能力としては強力で確実にAKUMAを破壊できる能力かもしれない。しかしAKUMAのレベルが高くなればなるほど魂は原形を失い状態が悪化するため、その分解放にも時間がかかり、彼女自身に大きく負担が掛かり体力も急激に消費する。また内部からの破壊というこの能力。いくら身体を鍛えているとはいえ武器や体術で自分自身を護る術を持たない偲月にとって、他のエクソシストと比べて戦闘中はよりその身は無防備に、危険にさらされる。そのため彼女が任務に赴く時は例外を除きほとんどの場合誰かとペアを組むのだ。その「誰か」は、必然的にほとんど神田となるのだが。
「…早く解放できた、けど、」
神田の言葉に、偲月はどこか考え込むような素振りを見せながら返す。どういうことだ?と訊ねながら神田は眉を顰める。偲月は釈然としない表情のまま感じたものをそのまま彼に伝えた。
「簡単すぎる。自分から魂を差し出したみたいな…」
「…何?」