それらに一瞥することもなく不機嫌な面持ちのままでいるグリムジョーを覗き込むように、半歩下がって歩いていたディ・ロイは「またそんな顔して!」と揶揄ってくる。
「眉間の皺消えなくなるぞ」
「うっせえ」
一月程前に遠征から帰還した父王は敵国から戻るやいなやグリムジョーを呼び出し、お前の嫁を見つけてきたぞと告げた。寝耳に水の突然の話にグリムジョーは、はあ?!と声を上げた。とうとう頭沸いたか、と吐き捨てるように父王を齧れば、言葉が過ぎるぞと周りにいた年の離れた兄たちがグリムジョーを嗜めてきた。それに対してもうるせえ無能どもが、と遠慮なく罵倒の言葉を浴びせ、どういうことだと口元に笑みを浮かべたままの父王に問えば、彼は酒を口にふくみながら流暢に話し始めたのだった。
・・・
「お前の嫁、どんな女だろうな」
「勝手に嫁にすんな。つかなんで俺指定なんだよ。いつもみてえにカス兄貴どもの側室にでもすればいいだろうが」
面倒くせえ、とポケットに手を突っ込み大袈裟にため息をついてみせたグリムジョーは、自分の嫁だという東の国の皇女が到着したという知らせを受け父王のいる玉座の間へ向かっていた。正直無視を決め込みたいところだったが、対応を先延ばしにしたところで面倒が重なるだけなのでとっととその皇女とやらに会ってどこかの宮に追いやってしまおうと思っていた。
父王曰く、侵略した東の国が降伏と同時に忠誠の証として娘を差し出すと言ってきたそうだ。王族の皇女が外交のため利用されることはよくあることだし、兄たちの正妻や側室も近隣の国から嫁いできた皇女たちだ。しかしその扱いは横暴を極めた兄たちにとっては妻というよりも奴隷に近いものであったが、グリムジョーは我関せずという姿勢を通していた。しかし今回は何故か兄たちでなく自分にお鉢が回ってきた。それは決してまだ妻をもたない末の皇子に対する配慮ではないことを、父王が話す周囲でクツクツと嘲笑を浮かべていた兄たちを思い出せばすぐに察せれた。
「イールフォルトの話だとどうも訳ありな女らしいよ」
「ああ?」
「異能の力持った醜女だってさ」
異能?とその聞き慣れない単語を繰り返しながらもなるほどな、とグリムジョーは鼻を鳴らす。
女に見境のない父王や兄たちが最初からグリムジョーにとあてがってくる女だ。普通の皇女ではないと察しはついていた。異能だろうが醜女だろうが、とにかく扱いづらい人質というよりも自分達に反抗的で意のままにならない末の皇子に対する嫌がらせも兼ねているのだろう。
無能は考えることが幼稚なこって・と頭をかきながらグリムジョーは大きな石の扉の前で立ち止まる。
「異能ねえ」
「
ご愁傷様だな!と意地悪そうに歯を見せて笑うディ・ロイを一瞥し、グリムジョーはまた頭を掻いた。どうでもいいと頭の中で自分の声がする。
「興味ねえわ」
吐き捨てるように言って目の前の扉に乱暴に足をかける。おい開けろと睨めつけながら扉の前に控えた家臣のひとりに短く命じると、家臣は恐ろしいものを見るかのように表情を強ばらせ素早く跪いた。
そしてすぐそばに控えていたもう一人の家臣が扉の横にあった大きな銅鑼を打ち鳴らす。グワンと地を這ったのちに空間に浮かび上がるような壮大な銅鑼の音が響いてグリムジョーとディ・ロイの肌を震わせた。
「第六皇子グリムジョー様、ご到着です!」
ギィ、と重い音がして重厚な扉が開かれた。グリムジョーは顎を上げて挑発的な目線を正面に投げ放った。