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ーー子を産んでヨ。そう言って彼女を生かした神威はその言葉とは裏腹に、避妊具を着けて彼女と交わった。力強い動きに名前は吐息だけで応えた。声を上げてはいけない気がしたから。一度ゴムの中に吐き出された白濁によって、静かに交わされたその行為は終わりを告げた。ほんの1時間足らずの出来事だった。


神威は最低限の処理をして部屋の明かりを着けた。ぼんやりと薄く電灯が光って、2人は真っ白だったシーツがところどころ赤く染まっている様子を見たーーそういえば返り血をそのままに行為に及んでしまったのか。ベッドの脇に腰掛ける神威に、シーツの間から起き上がった名前は声をかける。


「任務は終わったと思ってたんだけど」
「それは終わったヨ。でも俺達を偶然見つけたらしい集団が突然襲ってきてネ」


自分から襲って来たにも関わらず、集団にはまともに戦える人は一人もいなかったのだと言う神威に、なるほどと頷いた。おそらくその集団を皆殺しにして尚気持ちが満たされなかったのだろうと思ったが、神威もはじめから相手の力量など分かっていたことだろう。きっかけは些細なものに過ぎなかった。シャワーを浴びてくるといって離れて行った神威を眺めながら名前は先ほど迄の短い行為について思い出していた。


もっと独りよがりに抱くのだと思っていた。名前のことなんて気にもかけずに、そう、ここに無理矢理連れてきたように、無理矢理に名前を抱くのだと思っていた。確かに気の立っていた神威の行為は少し性急で荒さもあったけれど、一方で、彼は自らが満足するためだけの抱き方はしなかった。神威は名前の体を反応を窺いながら触れたし、名前は演技ではなくその指や舌から与えられる快感に酔いしれた。挿れる前には一度絶頂に達したし、それを見つめる神威の目はその時点で少し穏やかに見えた。


シャワーから戻ってきた神威とすれ違うようにして名前もシャワーを浴びた。どうせ神威の服からついた血や、最中の汗や唾液を落とすだけだったので髪はいつもの簪で留めて、軽くシャワーと指で全身の汚れを落としてすぐに上がった。一糸まとわぬ姿で部屋へ戻れば、部屋の明かりは先ほどと異なり普段と同じように明るく光っていて、部屋は行為の痕など見せない日常に戻っていたーー血まみれのシーツを除けば。


「名前、やっぱり巧いんだネ。さすが遊女サマだ」


ズボンとシャツだけを羽織った神威は完全に平常に戻ったようで、青い瞳を名前に向けながら楽しそうにそう言った。ーー悪くなかったのだろう。瞳はそう語っていた。


「そりゃあこれで何年もお金稼いでたからねえ」
「ふーん。セックス好きなの?」
「好きだから働いてたわけじゃあないけど、嫌いだったら働けてないんじゃないかなあ」
「なるほどネ。じゃあなんでアンタはあんなところに何年もいたワケ?」


いつでも逃げ出せただろ?そういう神威に名前は表情を変えることなく言った。


「逃げる理由もなかったからねえ。まあ、そのおかげで神威と出会えたわけだし、そんなに不満もなかったし」


ここに来る時に身につけていた服は血でにじんでいたけれど、名前は構わず身に纏った。他に着る服もないし仕方がないか、と名前は呟いた。


「俺のチャイナドレス貸そうか?一応それ、俺のせいだし」
「大丈夫、わたしの部屋はここからすぐだし」


じゃあ、また。そう言って名前は神威の部屋を出た。2人の行為はそうして、何事もなかったように終わったのだった。

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