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「今日も今日とて敵さんは大所帯だね…っと!」
「数ばかり集めたって仕方ないヨ。面白くないしネ。俺は先に進んで大将を叩く。雑魚は名前と阿伏兎に任せた」
「どうぞいってらっしゃい」


瞬く間に離れてゆく神威に慌てて銃を向ける敵は、その後ろに居た敵に撃ち殺された。名前の操る敵である。初めて阿伏兎が名前の戦いを見た時には高々数十人の敵を操るくらいだったが、その数は日を追うごとに増えてゆき、今日のように特別敵の人数が多ければ100近い敵を自在に操り、最早敵がただ寝返っただけなのではないかと思われる程だった。


「相変わらずあなたの所の団長さんは自由人だねえ」
「イヤ俺たちだけじゃないからね、アンタの団長でもあるからね。ってかお前にだけは言われたくないだろうよ!」
「え?あっごめんね手が滑っちゃった」
「オイなにこっちに銃向けさせてるんだ、こっちはもう年なんだァ、年寄りを苛めるのはよせェ」
「でもさっきは元気にわたしに突っ込んでたよ?」
「それはアンタが!ああもう何この子すごいめんどくさいんだけどォ」


阿伏兎は相変わらずマイペースな名前にため息をついた。時折頭に針の光る敵から銃を向けられるのはおそらく気のせいではないだろう。まるで神威が2人いるようだと阿伏兎は思う。


「名前こっちきてから団長に似てきたなァ…」
「え、そうかなあ?まあ一番よく話す相手だからねえ」


意外と真面目な名前はそんなことを話しながらもせっせと敵を殲滅している。なによりこれが終わってもきちんと報告書をまとめてくれるし、上との仲も取り持ってくれるのだ。そんなことを思い出した阿伏兎はまあいいか、と思い直した。そこで少し冷静になった阿伏兎はとあることが気になって再び名前の方を向いた。


「そういや名前、あの後団長とは一体どうしたんだ?」
「あの後??」
「一昨日の報告書書き終わった後よォ」
「ああ〜」


今思い出した、と言わんばかりの声を上げ、答えようとしたところでちょうど、その場に生きている敵は頭の後ろに針を刺した人間しか居なくなった。


「神威、しばらくもどってこないよねえ」
「そうだろうねェ」
「じゃ、いっか。じゃあみんな、同士討ちだ〜」


声はいつも通りだが瞳は戦いの時のそれだ。阿伏兎は、なんの躊躇もなく人を殺せる、その冷たい瞳をした名前を見るといつも団長である神威のことを思い出す。彼もまた、戦いになると目の色を変える人種だ。ーー似てきたんじゃあなくて、元々似てるんだろうなァ。心の中で呟いた。


全ての敵が銃を互いに向け合い殺し合った後、正しくその場に立っているのは第7師団の団員だけになっていた。


「全員生還、さすが夜兎は違うなあ」
「そこに一人混じって怪我一つない地球産ってのもどうかと思うがねェ」
「やだなあ、照れちゃう」
「なにに照れてるの?」


2人の会話に突如割って入ったのは神威だった。奥の方から、手に付着した血を舐めとりながらゆっくりと歩いてくる。


「せくしー」
「何、馬鹿にしてるの?」
「まさか」


神威が自分の進路に立つ生きたものを残すはずがないことをよく知っている団員達は、神威が歩いてきただけで任務の終了を知ることができた。


「さ、帰ろうヨ。さして強くもない相手だったしつまんなかったけどお腹空いちゃった」


名前と阿伏兎は、そう言う神威の横に並ぼうと歩き出した。


「ああ、あのね、楽しかったよ〜?」


唐突に名前はそう言った。言われた阿伏兎は首を傾げ、なにがだと問いかける。名前はにやり、と笑って前を向き、それ以降は何も言わなかった。しばらくの間ぽかんとした表情を浮かべていた阿伏兎だったが、何かに気づいたような顔をして、再びため息を吐くのだった。


ーー本当に、そっくりだなァ。

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