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静かな神威の部屋に衣擦れの音が響く。真新しい白いシーツの間で神威と名前は行為に没頭していた。
ーーあの時以来、2,3日に一度は夕食後に神威と共に彼の部屋へ赴くようになった。ほのかに光る電灯のしたで交わされるその行為の最中、お互い余計なことは何も話さず、吐息と布のこすれる音だけが場を支配していた。


「あぁ…!」


唐突に小さな名前の声が響く。名前の敏感な部分に神威の舌が伸びた。
ーー性欲処理にわたしを利用しているだけとは思えない動きだなあ。冷静に状況を分析できる程度に思考はクリアだったが、秘部を突く舌の動きに快感が高まるのを感じていた。舌は下半身から少しずつ上へ辿り、胸まで戻ってくる。柔らかな唇が乳首を咥えたのと同時に下半身に異物感を覚えた。細い指が2本侵入したのを感じる。名前も応えるように片手は彼の首周りに、もう片手は彼の下半身に伸ばした。


「っ…」


下半身のソレを掴んでしごくと、少しだけ息を飲むような声が聞こえる。いつの間にか胸から離れていた彼の顔は目の前にあった。その少しだけ余裕を失って揺らめく青い炎をみるといつも、名前の下半身は疼いた。それは彼女の表情にも現れて、はじめから決まっていたようにお互い手を止め、神威は避妊具に手を伸ばす。慣れた手つきでそれを装着すると、名前は足をM字に開いた。


先ほどよりも大きな異物感が下半身に走る。それも一瞬のことで、繰り返されるピストン運動によって大きな快感が名前にもたらされる。激しい動きは夜兎の身体能力の成せる技なのだろうか。少しの間そうしていると名前が自身に限界が近づくのを感じ神威の方を向いた。青い炎を瞳に映すと、そのまま神威の唇を貪るように己のそれと合わせた。舌を絡めれば快感は増して、神威が一層強く名前を突き上げる。抑えきれない喘ぎ声が2人の唇の間からこぼれた。ーーそれは一体、どちらの声だっただろうか。


抱き合った2人は少しの間痙攣していた。名前は彼女のナカにあるそれが震えるのを感じて、そうして神威はそれを引き抜いた。ゴムを外してティッシュを取り出し、処置を終えると神威は口を開いた。


「お風呂入ろうヨ」
「お湯を張って?」
「そうそう。たまにはそれもありだろう?」
「いや、わたしは自分の部屋ではいつもそうしてるからね。江戸の人間なので」
「そういえば地球人は毎日そうしてるんだったネ。まあとにかく今日は俺も入りたい気分なんだ」


珍しい、と思った。大抵の場合このあとはシャワーを順番に浴びて、部屋に戻って寝たり、残った書類を片付けたりしていた。いつも1時間足らずで終わる行為の後は、特段何をするでもなく、いつも通りの日常に戻ってくるのが常だった。しかし断る理由もなくーー自分でお湯溜めなくていいなら楽かも、と思っていたーー名前はベッドに横になったまま頷いた。


10分ほどでお湯が溜まったのか音楽が流れ出した。お湯を自動で沸かしてくれるいつもの機械は春雨においても健在であるということを名前は当然知っていたが、神威の部屋でそれを聞くのは初めてで思わず微笑んだ。お互いに一糸纏わぬ姿だったので、そのままシャワールームに歩いてゆく。


「相変わらず綺麗なお風呂だねえ」
「毎日部下が代わる代わる掃除にくるからネ」
「第7師団、ホテル開いてもやっていけるんじゃない」
「それは面白そうだネ。面白い奴が来たら寝込みを自由に襲いにいけるってわけだ」
「わ〜スリル満点のホテルだ〜」


マイペース人間が2人揃うと、会話は成立しているようでイマイチ成立しない。そしてお互いそれに気づかない。その状況にツッコミを入れられる人物が今この場には居なかった。軽く体を洗い流して2人で浴槽に入る。そこまで大きなサイズでないそれは、2人が向かい合って足を伸ばすのが精一杯だった。ざぶんと音を立ててお湯が溢れ出て行った。


「お風呂って声が反射して歌うと気持ちいいよね」
「なに、お前そんな子供みたいなこと今でもしてるわけ?」
「お客さんの前では勿論してなかったよ〜?でも歌うの好きだから」


そう言いながら鼻歌を歌う名前を神威はじっと見つめていた。


「俺の妹もそうやってお風呂で楽しそうに何か歌ってたよ」


ぽつり、と神威はこぼした。名前は初めて神威の口から妹の話がこぼれたので驚いたように目を瞬かせた。


「神威、妹いたんだ」
「ああ、『いた』よ。吉原にも来てた。一緒に戦ったんじゃないの?」
「ああ、あの子神威に似てると思ってたけど、妹だったんだあ」


生きているにも関わらず、過去形で述べた神威に名前が深く聞くことはなかった。神威は何を考えているのか分からない表情をして、それ以上何も言うことはなく立ち上がった。髪や体を洗いながら再び歌の続きを歌う名前を見つめる神威が何を思っていたのか、名前はやっぱり尋ねようとしなかった。


I'd sooner buy defying gravity...


異国の言葉で歌う名前の声はよく響いた。
何を思って歌うのかも、何を思ってそれを聞くのかも、お互い知らなかったし聞かなかった。


you'll never bring me down...Kiss me goodbye defying gravity


かみを洗い流した神威に名前は自然と体育座りをして横を空けると、そこに神威は同じように座った。


you'll never bring me down...


歌い終わると、名前は神威に、いつもとは違うーーつまり性欲を処理するためではないーー触れるだけのキスを送った、自らも体を洗うために立ち上がった。神威は何も返さなかったが、それをじっと見ていた。


ーー神威が家族を棄てて春雨に入り、ちょうど10年目の夜だった。






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一番自然な年齢ってこのくらいかなと思うんですが、アニメでしか追っていなくて原作が手元にないのでもし年数とか判明してて違うようだったらこっそり教えてください(管理人)

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