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ーーあそこに見えるのがシリウス、あれはベテルギウスだったろうか。
別に、空に焦がれていたわけではない。外にでることを望んでいたわけでもない。ただただ、興味がなかった。外の世界にも、周りの花魁達にも、客にも。興味がなかったからこそ抱かれようと罵られようと平然としていたし、商売のために笑みを浮かべ愛を囁くこともできた。何を言われても心は何も感じないが、体だけは反応するように作られていたので巧くやることができた。それでも、今、好きな人とだけ話し、好きな場所にいって、好きな星を見ていると、やはり綺麗だなと思わざるを得なかった。
「オイ名前、いるか?」
「どうしたの?」
しばらく何も考えずに窓を見ていた名前のもとに阿伏兎が訪れた。仕事を手伝ってほしいという。名前は快諾して立ち上がった。
「次の星は年中厚い雲に覆われてるそうだ。雪が降らない日は殆どない。夜兎の俺達には都合がいいがお前は地球産だろう、船に残るか?」
執務室で不意にそう告げた阿伏兎に名前は瞳を瞬かせた。瞳の向こうになにかが光ったように見えたがそれはすぐに消えて行った。
「どちらでも。」
にこりとも笑わずにそう短く返すのは名前には珍しいことだった。いつもは気の抜けた表情で、間延びした声で話す彼女でも、機嫌の悪いときはあるのだろうかと阿伏兎は思った。
「まァ交渉にゃァ来てもらわないと困るが、基本的には人員も不足してるわけじゃねえ。好きにしろォ」
阿伏兎がそう言うと名前はそれ以降返事をすることはなかった。
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