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名前は気づくと、雪のなかに立っていた。


ーーああ、またこの夢だ。
名前は思った。彼女は傷を負い、医務室で眠っていた。それを思い出すほどには頭は覚醒していなかったが、これが夢であるということはすぐに分かった。何度も見た夢だったから。そして、何度も見た夢だったから、知っていた。この後何が起きるのかも。耳を塞いでも瞳を閉じても、目の前にしんしんと降る雪が消えることがないということも。


目の前に広がるものは全て覚えている通りだった。
1,2,3と呟けばちょうど数え終わったところで現れる背の高い男性と、その後ろで寒そうに体をふるわせながら歩く女の子。自分の足は動いていないのに彼らと共に動く景色。32秒で天人に取り囲まれる。


「0号を渡してもらおう」


黒い毛皮のコートを纏った地球人にも似た風貌の男。2秒経つと名前は女の子を守るように立つ男性の顔が見えた。黒い髪に白い肌、灰色の瞳。整った美しい容姿は夢のなかで、永遠に26歳のまま。


ーーわたしが守れずに、死んでいったそのときの。
名前はどうせ耳を塞ぐことなんてできない。この惨劇を眺めることしかできないのだ。男と戦う女の子ーー若き日の名前と、荼吉尼族の大きな男を刀で切る彼ーー彼の名前を、名前は何故か思い出すことができない。若い名前が彼を呼ぶ時の声だけが、不思議と聞こえないのももう何百、もしかしたら何千と見て知っていたことだ。名前は見慣れた針を刺していつものように戦っている。でも、やっぱり10の子供の視野の広さなどたかが知れていることだと名前は分かっていた。


戦いは10分と26秒つづいて、そのときが訪れる。ドラマのように時が止まるわけでもなければ、幼い名前はそれに気づくこともないのだ。静かに倒れる男に気づかずに、名前は3分21秒で敵を全て倒して、振り返る。そして知るのだ。自らが何を失ったのかを。呆然と佇む彼女は、彼の名を呼ぶこともない。そう、そうして瞳を閉じて、倒れ込み。


ーーわたしは目を覚ます。


ベッドから起き上がった名前の瞳に何が映っているのかを知ることは難しい。

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