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「神威」
「ん?」
「ついてくるのはかまわないけど、研究所壊さないでね?」
「善処するヨ」


会話のトーンも、雰囲気も、あまりにいつも通りだったので神威は首を傾げながら頷いた。
研究所と呼んだその建物は、たとえるなら一つの箱のようだった。窓一つない直方体の形状をしたそれに同化するように扉がついている。その形状がこの厳しい環境に耐えるためなのか、あるいは外へ情報が漏れないためのものなのか、おそらく両方だろう。窓がないのなら、正面突破するしかない。はじめからそのつもりだったらしい名前は、懐から銃を取り出し、扉ではなくその少し右を狙って一発打ち込んだ。


大きな音を立てて何かが壊れるのを2人は聞いた。両開きの自動扉は左側が完全に開いて、右側は半分くらい開いて止まった。途端に建物の中から警報音が外まで響く。氷でできたその星に、それはよく反響した。それに気を留めることなく、2人は開いた扉から堂々と中へ侵入することに成功した。


ーーそれからのことは、あまりにあっけなかった。
その建物はいくつかの実験室や被験者(それは人であったり、他の動物であったりした)の入れられる檻、解析用のデータ室など多くの設備をその大きな建物内に全て備えていた。中には隠し部屋のようなものもあった。それら全てを予め知っていたように動く名前は、神威と共に建物内の全ての生物を殺戮した。それは第七師団がよく任される組織の殲滅任務の時と全く同じで、相変わらず見境なく戦う神威を邪魔することなくそれを援護して、その動きにはほんの少しの迷いも、動揺も見受けられなかった。


「何故、0号が…」


そう呟く研究員の声を神威も聞いた。名前は表情を変えずにそれらを殺したが、何度も聞くその言葉が誰を指すのかは明白だった。中には明らかな生体実験により人ならざる力を持つ者達もいて、神威はそれはそれは楽しそうにそれらをまとめて相手取った。名前もそれらと戦ったが、彼らに敵うような生物はそこにはいなかった。


数刻もしないうちに其処には静寂が広がった。辺りは血まみれで、壁や天井は壊されて、がれきが彼方此方に広がっている。神威と名前もところどころ怪我を負っていたが、服を染める赤のほとんどは返り血だった。そこまで殺戮を終えてから、名前は1階入り口の直ぐ隣にあった隠し部屋へと入って行った。そこには一人の、スーツを着た男の遺体が転がっていた。それはこの研究所の、そしてこの組織のトップの男である。


「あなたが生きていたことは知らなかったなあ、殺し損ねてたなんて」
「0号よ、お前を生み出してやったのは誰か忘れたか」
「それはそれは、その度はどうもありがとう、お父様」


では、さようなら。
その一言で心臓を針で貫かれた無力な男は、殆ど無傷のままに床にうつ伏せに倒れている。横に立っていた神威はそのやり取りを知らなかったが、その姿から彼が何者であるか、そしてこの部屋がなんであるかを察していた。


名前はその部屋で1冊の本を得、そしてそこにあったコンピュータで何らかの操作を施せば、画面いっぱいに数字が表示されるーー180,179,178と減るカウンターが何を表すのか、答えは言うまでもないだろう。2人はそのまま研究所だった建物を出て行った。


遠くに爆発音が聞こえたが、どちらも振り向かなかった。

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