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名前はまたあの夢を視た。もう見飽きたくらいのその夢は、やはり記憶のテープをそのまま再生しているように秒単位の正確さで名前の脳にその映像を映し出す。名前はいつも通りそれを見て、そして、いつも通り震える体で目を覚ました。


ーーこの夢は名前への罰である。少なくとも名前はそう思った。
守る力も持たない彼女が、守ることもできないのに、守りたいと思ってしまったことへの。


瞳に映る天井はいつものそれと違っていた。第七師団にいたときの部屋は必要最低限の家具しかなく質素だったが、今彼女に割り当てられた部屋はおそらくゲストルームで、様々な家具や置物に囲まれていた。照明はシャンデリアで、床は大理石。広すぎるとも思える部屋の、キングサイズのベッドでシーツに挟まれ、一人震える小さな存在。飄々と生きているつもりでも、過去は確かに名前の心を巣食い、消えることのない傷を残している。ーー本当に?心のどこかから聞こえる声を名前は無視した。


起き上がって窓の外を見ると、相変わらず美しい星々が広がっていた。名前はこの星空を、朝も昼も夜も光り輝く宇宙の景色を眺め続けることが好きだった。外では一等星や二等星が、自らの美しさを誇示するように光る。名前の感情の揺れに関わらず。人の戦いや、苦しみに関わらず。


「美しいもんじゃねェか。てめェのとこの部隊が全滅しようが星は光続ける」
「悠久の時を生きる彼らにとって、一瞬の間に起こる人の争いなんて関係のないことだからねえ」


唐突に聞こえた声に、名前は驚かずにそう返した。ゆっくり振り返ると、薄暗い部屋の入り口の方から、鮮やかな着物を身に纏う男が歩いてくる。


「てめェのところの団長に会ってきた」
「ああ、神威。処刑の日時は伝えたの?」
「あァ。ぴんぴんしてやがったが」
「でしょうね」


名前が立つ窓辺までくると、男の顔は外の星に照らされてよく見えた。神威とは違うようで、瞳の奥に見えるものは似ているようにも感じられた。


「処刑は3日後、第七師団の戦艦はもうダメでしょうね」
「なんだ、テメェだけ無事なことに責任でも感じてるのか」
「まさか。わたしは女だから。黙って観ているのが仕事よ」
「謙遜はいらねェ。テメェ、強いんだろう」
「あら、神威がそう言ったの?所詮は女だけど?」
「戦場に男も女もあるめェ。殺す者と殺される者だけだ」


会話をしながら、高杉は名前の腰へ手を伸ばした。名前は振り払わない。


「考えていたの。あっちで輝くのが一等星なら、わたしたちは何だろうって」
「ほう?答えは出たか?」
「ええ」


反対側の手はーー男性とは思えない細い指だけれど、神威のそれのほうが好きだ、と名前は場違いにもそう思ったーー名前の頬を撫でる。


「まあやっぱり、あれじゃない?」


ーー好き勝手に宇宙中を駆け回っては、勝手に光って、勝手に消えていく、星屑。
違いあるめェ、そう囁くのを名前は聞いて、二つの陰は一つに重なった。


神威の唇はもっと柔らかかったなあ…

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