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人に抱かれるのは嫌いではない。…そうでなければあの常夜の国で精神を保ち続けることはできない。
名前にとってそれはビジネスであり、道具であり、そして自分を保つために、他の余計なことを忘れるために必要な行為だった。生命活動のために必要な行為を終えて、シャワーを浴びた名前は先ほどまで自分の上にーーいや今回は後ろだったかもしれないーーいた男と共に阿呆提督の前に座っていた。相変わらず食事を取るだけだが、阿呆提督から向けられる高杉への視線が、前よりも鋭いのに名前は不思議そうな表情を浮かべた。


ーー最初に高杉と会ったのはあの後、つまり神威と食事を取り、提督に脅迫状を突きつけられた後だった。
名前は部屋を与えられ、夕食までは一人で過ごした。自室にはなかったテレビをつければ何かのドラマが放送されていた。それを眺めながら腹筋をしたり、キッチンに並べられていたウイスキーを飲んだりしていれば、時間はあっという間に過ぎていった。暫くすると勾狼が彼女を呼びにきて、彼女は先ほどまでいた部屋に呼び戻されたのだ。同じように並べられた食事、テーブルの反対側にいる提督、そして神威のいた場所に座っている見知らぬ男。


「紹介しよう。此方は鬼兵隊提督の高杉じゃ。其方も先ほど話には聞いておろう。そして彼方が第七師団参謀の名字」


参謀など名ばかりであることを此処にいる誰もが知っていた。高杉はこの場にいる男の視線が、名前に向けられるその下劣な笑みが何を表すのかを知っていた。そして同じく知っていて笑みを崩さない名前の瞳の奥に燃える何か。


「名前とお呼びくださいな。どうぞよろしく」


互いに瞳の奥に消えぬ炎を燃やし、それを笑顔で取り繕って握手を交わした。


そして今、あれだけ会話のあった3人の食事は、もう話すことは尽きたというように静かだった。神威の処刑まではあと2日。食事はこれが終わればあと5回だろうか。名前がいつも見慣れた食事の風景とは大きく異なったテーブル。皿は一枚ずつ、フォークとナイフを使って上品に食べる隣の男。食事は当然1人前。


「名前よ、其方の部屋へ寄らせてもらおうぞ」


食事の終わりに阿呆提督のその言葉に、名前はかしこまりましたと笑顔で返した。第七師団唯一の地球産。元花魁、女。それを一人此処に残した意味は分かっていたし、それはとうに実感していたことだった。代わる代わる彼女の部屋を訪ねる男達。体に残る種々の痕。


ーー好きなだけ抱けばいい。
名前の笑顔は、彼女を非力な女と見下す周囲には可憐な笑みに見えたかもしれないが、高杉はおそらく分かっただろう。それは、嘲笑だ。体を渡すことに意味なんてない。そうしてこの数日見続けた悪夢と、そして心が告げることに、名前はもう目を背けられない。恐怖はーー守れないことへの恐怖は消えない。ならば、できることをするまで。

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