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第七師団は騒然としていた。


「団長、心辺りはねェか?名前はウチの情報を深く知りすぎているし、上にバレる前に丸く収めないとやべェよ…」


神威が目を覚ました時にはもう隣に名前の姿はなく、今日は会議だと聞いていたのでそちらへ行っているのかと思えば姿が見えず、困った阿伏兎が神威の部屋を訪れて発覚したその失踪に、阿伏兎をはじめとした団員が捜索にあたっていた。最後に彼女の姿を見かけたことになる神威だけが頼りだという彼に、神威は昨日のことを思い出した。


「うーん、わからないなあ。まあ大方、有給使い切ったから休みの申請ができなかったんじゃない?」
「ふざけるなァ、そんなんで重要な会議すっぽかされてたまるかってんだ」


阿伏兎はそう返すも、過去のマイペースな言動を思い返せばあながち間違いでもないのではないかという気がしてきてしまう。名前は基本的に、自分が挽回できるぶんの迷惑は躊躇なく掛ける人間だ。そうすると逃げたわけではないのかもしれないが、しかし大きな組織である以上上の地位にいる人間がどこにいるのか分からない状態は長く続けば続くほど困った事態になるだろう。再び阿伏兎は頭を抱えたが、その隣で神威は首を傾げていた。


「行方不明って、戦艦にいないならどこからいなくなったの?」
「それもわからないんですよォ。何せこの母艦には補給船から会議の参加者を送り迎えする中型艦までいくつ乗降してるのかわかったもンじゃねえ」
「鬼兵隊は?」
「は?」
「鬼兵隊の船。名前をかくまえる船なんて春雨の船にはない。いずれ見つかるなら組織としては別の鬼兵隊の船にいると考えるのが妥当。シンスケも来てたんだろう?」
「団長…」


珍しく戦いのこと以外に頭を使った神威に阿伏兎は驚いて彼を凝視した。神威はそれを気にも留めずに阿伏兎をーー否、その後ろの廊下を見つめた。


「ねえ、違う?シンスケ」
「アァ、よくわかったじゃねェか」


阿伏兎が振り向くと、暗い廊下の向こうから鮮やかな着物が薄く光るのが見えた。ゆっくりと歩いてくる男の姿が明らかになるーー高杉だった。神威は目を細める。それを見て高杉は笑った。


「そちらのお姫サマはウチの小型艇に乗って地球へ向かった。有給使い切ったからこっそり行くんで船貸してくれって言ってな」
「やっぱりネ。じゃ、名前はしばらくすれば帰ってくるでしょ」
「そんな簡単に言ってくれますけどねェ、こっちはそれまで上をどう誤摩化せば…」
「阿伏兎うるさいヨ。俺が迎えに行くからどうにかしろ」
「ハァ!?なーに言ってんだただでさえ名前の件を誤摩化さないといけねェってのに」
「ま、よろしく〜」


ちょっとォ!?と叫ぶ阿伏兎を視界に入れることもなく高杉の方へ歩いてゆく。


「地球のどこにいるのかは聞いてるの?」
「いや、聞いてねェよ。しかしこれは面白くなってきたな」


地球の女一人のために春雨の雷槍が動くたァ。
色々な意味の籠ったその一言が暗い廊下に響いた。神威と高杉の視線が交わる。


「あれはウチの参謀だ。戦闘においてはそこら辺の雑兵より余程働いてくれるウチの有望株でネ。俺は名前を買ってるんだよ、強い子を産みそうだろう?」


冷たい声に滲んだ感情は本当に言葉通りのものだけだっただろうか。


ーー面白いものが見れそうだ。

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