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一度部屋に戻った神威は、昨日までそこにあったぬくもりを確かめるように冷たいベッドに腰掛けた。ベッドの脇に丸まっていた赤いワンピースはなかった。


ーー今日起きたことが夢じゃないってことを、これからこの服を見る度に思い出せる。
名前がそう言ったのを思い出す。そのワンピースが此処にないというのはどういう意味だろうか。神威はそれが気になって立ち上がると、名前の部屋の前に立った。鍵は閉められておらず、入って電気を着けると殺風景な部屋と窓。彼女がいつだって見つめていた宇宙は今も様々な恒星が光輝いている。宇宙では星々は手が届きそうなくらい近くて、けれど窓の向こうにはいつだって腕を伸ばせない。名前にとって、あの星から見上げた空と、吉原の見えない空、そしてこの船から見る宇宙は、どのように見えていたのだろう。


「これは…」
普段何も置かれていない机の上に一冊の黒い本が置かれているのが目に入った神威は小さく呟いた。いつかの星で爆破した研究施設での光景が脳裏を過る。ーー彼女は何かを、懐に入れて持ち出した。それを神威は見ていた。


神威はそれを同じように懐に入れて部屋を出た。
赤いワンピースは此処にはない。

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