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名前は瞳を開けた。2人にしてくれ、そう言った日輪との短い会話が終わって、月詠と3人、日輪の車椅子を引きながら散歩に出ていた。太陽の登った吉原をあの青年、神威がこの街に留まることはなかった。当然第二の夜王としてこの街を支配していることになってはいるが、それはどうやら形だけのものであるらしい。日輪は花魁ではなく、小さな茶屋を始めるのだと言っていた。
「日輪が茶屋をやるのはここだっけ。いいねえ、週6くらいでお茶飲みに行くよ」
「何言ってんだい、ちゃんと働きなよ」
「わかってるって」
バカみたいなやり取りだな、と名前は思った。月詠はそれを聞いて、そういえば、と名前の方を向いた。
「名前はこれからも花魁を続けるでありんすか?」
そう問いかけた月詠に名前は小さく笑った。
「さあ、どうだろうねえ」
将来どうなるかはさっぱり分からないなあ。思い浮かぶのは、やはり1人の青年の姿。
ーーなんだか今日は昔を思い返してばかりの1日だなァ。
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