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全てが終わった吉原で、ぼんやりと太陽を眺めていると、気づけば周りにいた晴太や二人組は消えていた。最近こういうことが多いなあ、と思いながら振り向くとそこには先ほどの青年、神威が立っていた。

「やあ、こんなところでなにやってるの?」
「うーん、晴太を連れて来たはずなんだけど、気づいたらいなくなってたんだよねェ…」

まるで警戒心のない会話だと名前は思った。恐らくは自分と戦う気できているであろう男を前に、ああ苦無手元にないなァ、なんて他人事のようなことを考えていた名前はとことんマイペースな人間で、今ひとつ危機感を持つのが苦手だった。

「まあなんでもいいや。今すぐ俺とやりあってよ」

って、言いたいところなんだけど。
予想通りの言葉を吐いた神威は、その後予想外の言葉を続けた。

「まあアンタも疲れてるだろうし、それじゃあ俺もつまらないんだよね」

だからさ、ウチこない?
そんな、まるでちょっと遊ぼうよというような軽いノリでいう神威。連れて行く先はもちろん宇宙、春雨の戦艦だろう。名前はそれにちょっとだけ困ったような顔をした。

ーでも、それは楽しそうだなあ。
名前は思う。楽しそう、と一言で形容するにはあまりにも複雑な感情だったけれど、でもそれを言葉にしようとすると楽しそう、としか言えないような。それは「この人に着いていけば人生が変わるかもしれない」という期待にもにた感情かもしれないし、一方でここに売られて以降ずっと世話になってきた日輪や月詠への罪悪感でもあったかもしれない。

「ま、1週間後くらいに迎えを寄越すからさ、それまでに考えておいてヨ。まあ何言われても連れて行くけどネ」

そう言うと神威は背中を向けた。名前は思わず口を開いた。

「いいよ。行く」

少し驚いたように振り向いた神威に名前は笑ってみせた。

出会った時に思ったのだ。この人は自分の人生を変えるかもしれない、と。そうして、それを確かめるチャンスが目の前に、突然に訪れて、なぜか気分が高揚するのを感じられた。

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