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のんびりと散歩をして、ご飯を食べ、いつものようにおしゃべりに興じてまた散歩をした。気づけばもう日が沈みかけていた。日の登った吉原では、朝になれば日が昇り、夕方になれば日は沈む。吉原の外の街と全く同じように。

「じゃあわたしはちょっと買い物をしてくるよ。月詠、日輪をよろしくね」

なんということもない口調で名前は言った。月詠が頷くと、日輪と一瞬だけ目が合った。

名前は、言葉は不要だと思った。またね、と言って、特別表情を変えることなく2人とは反対方向に歩いて行く。その背中を日輪と月詠は見つめていた。日輪は全て知っているような表情でそれを見送り、月詠は何も知らない表情でそれを見送った。

「じゃあ、帰ろうか」

日輪はそう言った。月詠に車椅子で引かれながら、日輪は名前のことを考えていた。

遊郭に売られるには少しばかり年齢の高かった名前は、日輪にとって月詠の次くらいには仲の良い遊女だった。名前は10年とこの街にはいなかったが、同じ花魁の地位を得て以降は特に、最も共にいる時間の長い女性だっただろう。そうして様々な姿を見てきた。客の前では完璧な花魁なのに、2人になると途端に口調が戻り、自らの名前を捨てることもしなかった。彼女が武器を取るところなど見たことはなかったが、あの時苦無を構える彼女には、不思議と驚きはなかった。

一方で月詠はそんなことを考える日輪の様子を見て少しの違和感を覚えた。そうしてようやく、もしかして名前は戻っては来ないのではないかと、そんなことを考えた。結局あの時の、1週間前の名前の行動に対し、彼女は誰から聞かれてもうまく誤魔化していて、誰もなぜ彼女があのような行動に出たのか、またそうすることができたのかを知らない。日輪は聞いたのかもしれない、そう月詠は思う。

2人の予想通り、それから名前は帰ってこなかった。吉原ではちょっとした噂になったが、もはや開かれたこの遊郭で、彼女のように長い間外の世界にいた女が、外での生き方を知っている遊女がこの街を出ることは珍しくなかったので、同じように彼女も外での暮らしを選んだのだろうと、そう誰もが結論づけた。

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