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「サシでは戦えません。わたしの戦いが見たかったら、集団で戦える場所に連れて行ってください」

名前は戦艦に着いて神威の顔を見るなりまずそう言った。周りの夜兎は一瞬固まったあとに名前を若干引いたような目で見ていたし、阿伏兎は「あーあ」と言わんばかりにため息をついた。阿伏兎はこの数刻で彼女の性格ーーつまり極度のマイペースーーを身を以て知っていたのだ。しかし神威は名前に負けないマイペースである。

「それはどういうこと?」
「詳しくは説明できない。見れば分かる」
「それは、アンタのあの不思議な戦い方に関係するわけ?敵の頭の、同じ場所を狙って殺さずに投げる戦い方に」
「さすが夜兎様だ。その通りだよ」

そんな会話をしているがあの時あの場に居たのは神威と名前と晴太だけだ。周囲は神威が部下に女を連れてこさせたことに戸惑いを隠せないし、その女と神威が当然のように戦いについて話しているこの状況を理解できずにいた。しかし周囲がそう戸惑っている中でも会話は進んでいたようで、

「阿伏兎、たしかこの後の任務ってどっかの星のナントカって組織の壊滅だったよね、春雨に仇なしたとかで」
「どっかの星のナントカってなんだァ、壊滅以外に何一つ覚えてねェじゃねえか」
「だそうだから、名前、ちょっとその組織滅ぼしてきてよ」
「はァ!?」

阿伏兎はもう頭を抱えるしかなかった。つい先ほど知り合ったばかりののんびりとした組織と全く無関係のマイペース女ーーおそらく遊女ーーに戦闘を、それも単独で任せるなど。戦いすぎで頭のどこかがやられたんじゃないか、だいたいなんでそんな軽い、そう、ちょっとそこにお遣いに言ってきてよとでもいうようなノリで言う話ではないだろう。しかし名前も軽くいいよ、なんて返しているではないか。自殺志願者か何かだろうかと思ったがしかし名前は大真面目に敵やそのアジトの情報をくれなどと言ってくる。今日は意味の分からないことがたくさん起こりすぎて自分の頭もおかしくなりそうだ、と阿伏兎は思ったが、本当にどうかしていたと気づくのは手元にあった資料を全て彼女に渡した後だった。スパイか何かだったらどうしようか、という危惧もしたがそうと分かったときに殺せばいいかと思い治るーーというか今殺したら神威に殺される。

更に一週間が経ち、神威のいうところの「どっかの星」の「ナントカって組織」の建物のほど近くに着陸すると、神威は阿伏兎と、数人の部下を連れて名前と共に降り立った。
ーーそしてやっと、そう、数刻会話していても全く分からなかったこと、つまり、団長である神威が彼女に興味を持った理由を理解したのだった。

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