To the north



「ユリアはん、すごい魔力やな!さすがは祈り子様や」
「ありがとう。まあ魔力くらいしか取り柄がないからね」
「そんなことないよ。ユリアのおかげでわたしはすごく戦いやすかった」


ケット・シーやティファにそんなことを言われるとすこし恥ずかしい。
わたしは人間ではないので、普通の人間より魔力が高いのは言ってしまえば当たり前なわけだけれど、ティファのように俊敏に動いて肉弾戦をしたり、クラウドのように大剣を持って戦うような体の鍛え方をしていない。旅を進めるのさえ一苦労だった。ニブル山を越えるのも大変だったけれど、目的地の見えない平野をひたすら歩き続けるのも不安だ。


体は慣れない長距離移動に疲労を訴えているのがわかる。それでも明るいエアリスやユフィ、ケット・シーたちに助けられながら北を目指して歩き続けた。


夜は焚き火を燃やし、テントを張って、寝袋に包まって眠りに就く。
森を抜けて、代わる代わる休みながらモンスターと戦い、再び平野を進む。


何度か繰り返していると、、遠くに高い建造物が見えた。村、だろうか?その周辺には家が建っているのも見える。


「あれ、なんだろう…?」


ティファが小さく呟く。
村が近づくにつれてその平野に不釣り合いな建造物の全容が明らかになった。


「サビついたロケット…… 何のために、こんな巨大なものが……?」


クラウドがそう呟く。
——ロケット?


「宇宙開発…?」


神羅カンパニーには宇宙開発部門がある。魔晄炉の開発が始まって以降はほとんど名前だけになってしまったけれど、それまでは宇宙開発のための部門もかなりの予算で動いていたのだと何かで読んだ。ロケット、と呼ばれるものは宇宙へ人や物資を運ぶ機械らしい。最初の発射実験が失敗に終わり、そのまま開発が中止になったと聞いている。こんな形をしているんだ。興味深くその背の高い物体を見上げた。


流石にこの数で同じ場所をうろうろとしているのは目立ちすぎるので、今度は3グループに分かれることになった。エアリスは楽しそうにクラウドの腕を取って手を引いてゆき、それに慌てたようにティファが付き従っていた。レッドXIIIとユフィ、バレットも3人で歩いてゆき、それを見送ったケット・シーがデブモーグリとともにひょこひょこと歩いてくる。


「あまりモンはお二人ですか。ほな、行きます?」
「そうだね。先にちょっと装備品を整えても?」


この村の名前はロケット村、というようだ。
神羅が魔晄エネルギーを手に入れるより前からずっとここでロケット開発が進められていたのなら、この街の発展はロケットと——宇宙開発と共にあったことが察される。「あまりモン」仲間の1人と1匹を連れて、ひとまずは武器屋を探して街を歩き始めた。


武器屋は村の入り口からそう遠くないところにあった。品揃えはそうよくはなかったけれど、たまたま入荷されていたという1本だけ置かれたプリズムロッドをイヤリングとともに購入し、ニブルヘイムを離れて数日、ようやく装備が整う。


「お嬢ちゃん運がよかったね、ここは基本的に銃と簡単な武器しか置いてないんだ」
「そうだったんですか、確かに銃の品揃えはいいですね」
「おう、ニブルエリアは狼がよく出るからな、銃が一番便利なんだ」


なるほど、と思いながら武器屋の主人との会話を続ける。
その脇で銃使いであるヴィンセントが所狭しと並べられた銃を眺めていた。やがて一つを選んで購入している。それを尻目に武器にここに来るまでに集めたいくばくかのマテリアをロッドにはめ込みつつ、主人との会話を続けていると、思いもよらぬ情報が飛び込んでくる。


「え?今日ですか?」


神羅の若社長が今日この村を訪れる。
それで、ロケット開発の責任者——艇長と呼ばれているようだ——がそれを宇宙開発の計画再開に違いないと喜んでいるのだという。


「ああ、そうみたいだぜ、ウチの艇長が張り切っちまってよ。やっぱり社長は若いのに限るってな」
「若いの…?神羅の社長って…」
「ああ、最近変わったんだってよ。嬢ちゃん知らないのか?」
「あー、ちょっとその、田舎から来たので…」


嘘はついてない。ニブルヘイムはかなり外界から隔絶されたような場所にあったし。誤魔化すように笑って店を出ると、状況をよく把握できていないわたしと、多分ヴィンセントのためにケット・シーが解説を加えてくれる。


「プレジデントは突然殺されてまったんですわ。今の社長は息子のルーファウス神羅です」
「殺されて…?」
「ええ、…殺したのがまあ、セフィロスっちゅうことで、神羅カンパニーもセフィロスを追ってるみたいや」
「セフィロスが…」


ヴィンセントは何かを考えているようで、小さくその名を繰り返した。
わたしが寝ている2週間の間にも色々あったみたいだ。眠りにつく前、最後に見たミッドガルの景色を思い出す。


…じゃあ、あの時のセフィロスは。


「プレジデントを殺して、わたしのところに…?」


相変わらず何を考えるにもわからないことだらけだ。なぜここにいるのかも、セフィロスがどうしてわたしをここへ連れ出したのかも。