The Tiny Bronco
3人はそれぞれ何かを考えるように無言でいると、遠くから車の走る音が響いて、だんだんと近づいてくる。見上げると、神羅のトラックが目の前を通り過ぎて、ロケットのある奥の方にある一軒の家の前で止まった。ずらりと神羅兵が村の中に並び、あたりは緊張感に包まれる。
「…行ってみる?」
「せやな。クラウドさんはロケットの方へ行ったみたいやし、なんやまずいことに巻き込まれとるんとちゃうかな」
ケット・シーがそんなことを言うので近寄ってみれば案の定、車の泊まっていた家の外にはクラウドやエアリスがいて。男が二人何やら言い争っているその奥で、家の中から出てきた女性に慌てたように家の中へ招かれている。
「…まあ、たしかにトラブルに巻き込まれてる感じかな」
家の前で誰かが言い争っている——多分怒鳴っている方が「艇長」だろう、オレから空を奪いやがって、そんな声が聞こえた。ということは隣の銀髪が「ルーファウス神羅」?確かに、写真で見たことのあるプレジデント神羅と比べると驚くほど若く美しい男性だった。遠目に見ても明らかに分かる上質な白い服を風に揺らして、怒鳴り続ける男を冷静に往なしている。
「…ボクらはどうしましょうかねぇ」
「面倒ごとはごめんだ。クラウドたちが出てくるまで待機していればいいだろう」
ヴィンセントは冷たくそう言った。
実際、家の前で繰り広げられる喧嘩は激しくはなれど落ち着くことはなさそうに見える。クラウドたちが中から出てくるのを待つほかなさそうだった。わたしたちはそれ以上近くことなく、クラウドたちを待ってふらふらと行き先も決めずに村を歩き始める。
「…ヴィンセントは宇宙開発してたころの神羅のこと、知ってる?」
「…私がタークスだった頃はまだ試作品を作り始めたばかりだった」
「へぇ…その試作品を見たことは?」
「私には縁のない話だったな」
「おや、残念」
宇宙開発にはさして興味のなさそうなヴィンセントとそんな会話を交わしていると、突然大きな音がクラウドたちの入っていった家の向こうから聞こえて顔を上げた。
「っクラウドさん!?」
「ケット・シー、ユリア、ヴィンセント!来い!!」
ピンク色の小型飛行機が危なげに低空飛行している。後ろからは神羅の兵たちがマシンガンで狙いを定めていた。3人で顔を見合わせて、急いでその飛行機の方へ走る。
「乗るっていったって…!」
「…ユリア」
不安定に揺れる飛行機。走るのはいいとしても、飛び乗るのは。そう思っていると後ろから低い声。そして、体がふわりと浮き上がった。
「ヴィンセント!」
「…捕まっていろ」
そう短く言うと、ヴィンセントはマントをなびかせて加速する。思わずぎゅ、と首にしがみつくと、ヴィンセントはそのまま勢いに乗って高く跳び上がった。
ガン、と大きな音がして体にも衝撃が走る。左下へ顔を向ければ桃色をした巨大な鉄の物体——先ほど空を飛んでいた飛行機に無事乗れたようだ。スピラではもっと原始的な形をした飛行物体でさえアルベド族の男が使っているのを見たきりで、こんな飛行機は乗る以前に見るのも初めて。けれどこれが正しい乗り方じゃないこととか、なにか変な音がしているのは決してこの飛行機の正常な動作音じゃないとか、そういうことはなんとなくわかった。
もう一度機体が小さく傾いて、後ろに新しい男が飛び乗ってきたのがわかる。
——先ほど言い合っていた男だ。
「シィィ——ット!尾翼がやられてるじゃねえか!」
「不時着か…」
「ああ、でっけえ衝撃がくるぜ。ちびらねえようにパンツをしっかりおさえてな!』
男がそう叫び、わたしは再びヴィンセントに強くしがみついて瞳を強く閉じた。
すぐに機体には大きな衝撃が響いて、それがヴィンセントの体を通してわたしにも伝わる。ざぶん、と大きな音がして、身体中に大量の水が降ってきた。
——陸に落ちるよりは幾分かマシだった。最悪の場合爆発していただろう。飛行機は海に流されてゆらりゆらりと揺れている。エンジン音は聞こえるから、壊れてもいないみたいだし。すこし落ち着いた心の中でそう分析した。
「ヴィンセント、ありがとう」
「…ああ」
ヴィンセントにお礼を言って彼から離れ、機体に直接座り込む。
しかし落ち着いてみるとだいぶ恥ずかしいことをされたような気がする。そもそも、わたしが跳べないのをすぐに察して抱えてくれたのは意外だった。置いて行かれたらそれこそ大変なことなので、感謝はしているけれど。
「全員いる、かな?」
「大丈夫みたいだね」
エアリスとティファが機体に乗っているメンバーを確認する。わたしは深呼吸をしながら気持ちを落ち着けた。
最後に飛び乗った男は機体を歩いていくつかの部位を確認すると戻ってきた。
「こいつはもう飛べねえな」
「ボートの代わりに使えるんじゃないか?」
なんてことを…。
おそらくこの男の持ち物であろう飛行機をこんな風にしておいてそれは怒らせるのでは?内心どぎまぎとしながら男をみると案の定機嫌を損ねているようだが、思ったほど怒ってはいなかった。
クラウドはなおも男と話し続ける。——シド、という名前らしかった。面白そうだ、と言って仲間に加わった彼の操縦で、飛行機——タイニー・ブロンコをボートがわりに先へ進むことになる。激しい剣幕でルーファウスとやりとりをしていた印象が強く気性の荒い男だと思っていたが、意外とおおらかなところもあるのだろうか。少し安心してわたしも口を開いた。
「わたし、ユリア。よろしくね、シド」
「おう、嬢ちゃんもセフィロスを追ってるのか?エアリスもそうだが、みたところ普通の嬢ちゃんたちじゃねえか」
「まあ、いろいろ訳ありでね」
「へえ、そうか。世の中色々あるもんだな…で、どこへ行くんだ?」
ルーファウスのヤツはセフィロスを追って古代種の神殿へ行くと言っていたが。
その言葉に、わたしの中の何かが強く反応したような気がした。
古代種の、神殿。
セトラが作り出した建物…?
エアリスの方を見たけれど、何もわからないようで無言で首を横に振っている。
クラウドが気になる名前だ、と呟いていて、わたしも心の中で同意した。
「…エヘ。西へ行くっての、どう?」
ぜ〜んぜん理由なんかないけどね!
なんだか白々しい、何かを隠しているみたいだけれど、どこへ向かえばいいかさっぱりわからないわたしたちは、とりあえず言われるままに西へ舵を切った。
この旅はどこへと続いているんだろう?セフィロスに追いついたら、その先には何が?
未だ答えのでる気配もみせない問いを抱えて、タイニー・ブロンコは浅瀬を漂うように進んでゆく。