The machina that crosses stars



「ユフィ、おかえり」
「…ユリア」


旅の支度をしているとユフィが戻ってきた。ティファやエアリスとは昨日話したのだろうけれど、わたしとはあの山の上で縛られていたときから話していない。少し気まずげにわたしの腕につけられた腕輪をじっと見ている。


「昨日は災難だったね、あの後怪我はなかった?」
「…別に、大丈夫だよ」
「そっか、よかった」


なるべく優しく笑ったつもりだったけれど、ユフィはついに腕からも視線を外して、反対方向を向いてしまった。怒ってないよって伝えたつもりだったけど、嫌味っぽかっただろうか。そう思ったところで、いつも元気なユフィには珍しい消えてしまいそうなくらいの小さな声で、ごめん、と囁かれる。


「じゃ、アタシも準備してくるからまたね!」


慌てたように走ってゆくユフィの耳が赤い。隣にいたエアリスがそれを見て笑った。


「ユフィ、かわいいとこも、あるね?」
「そうみたいだね」








「ユフィのお父様、ですね?」
「いかにも。君は彼らの仲間かな?」
「はい。ユリアと申します」


あの後無事機嫌を戻したユフィに話を聞いて一人で訪れたのは、町にそびえ立つ五重塔。
最上階で待っていたゴドーさんと呼ばれる男はユフィの父親でこの町を守る五強聖のトップである。


「この町に伝わる伝説のことで伺いたいことがあって」
「…実は昨日ユフィから話は聞いている。スピラのことだろう」
「…ユフィが」


そんなそぶりは微塵も見せなかったのに。
明るく素直じゃないけれど、根は優しい女の子。


「素敵なお嬢さんですね」
「なにを、アイツはまだまだ…」


——素直じゃないところは、お父様譲りか。
途端頰を少し赤らめながらユフィの文句を言いはじめるゴドーさんを見ていると微笑ましい気持ちになる。そんなわたしの感情を察したのか、ゴホン、とワザとらしい咳を1度して、真剣な表情に戻った。


「残念だが、スピラについてこのウータイに伝わることはそう多くはない」


それはほとんど伝説のようなもの。
スピラと呼ばれる場所はどこか遠くにある別の惑星で、昔ある人々がスピラにあった古い機械の船で宇宙を旅してウータイへとやってきた。ウータイはそんな人々によって作られた街だという。その機械は長い旅の中で壊れてしまったが、それからも度々スピラの民と名乗る者が突然にこの世界に現れて、その度にウータイの民は自らと同じルーツをもつ人々を歓迎してきた。


「…不思議だったんです。クラウドやティファはわたしとは…顔の形とか、全然、違うけど。ユフィやウータイの人々はどこか、スピラの人に似ている」


クラウドやティファ、バレット、シド、ヴィンセントを見ていると、顔のつくりが明らかにスピラにいたわたしたちヒトや…アルベド人や、他の民族とも異なっていた。けれどウータイでは、スピラに住むわたしたちと同じ…平たい顔をした人が暮らしている。それに少し、安心感を覚えたのは事実だった。


「…でも、はじまりは、わかりましたが、機械もなしに現れたスピラの人は、どうして突然この星に?」
「…それはワシにもわからぬ」


そもそもはじまりだって、誰がここに来たのだろう?
古の機械を使ってアルベド人がわざわざ他の星へ?スピラでは虐げられていた彼らがそこを離れようとするのはたしかに、おかしくはないけれど。それでも、スピラで彼らは彼らなりに『シン』と戦おうとしていたことを知っている。雷平原に避雷塔を立てたのだってアルベド人だと聞いている。星を渡れるような巨大な機械を、『シン』に攻撃されずにサルベージなんて、できるのだろうか?


「いろいろ、ありがとうございました」


一言そう告げて、五重塔を後にする。


謎は増すばかりで、解決しそうもない。
レッドXIIIはどこか別の世界、と言った。この世界の過去か、あるいは未来にある異なる世界。


——『シン』のいないスピラ。過去か、あるいは、——未来?


「それはないか」


自分で考えてすぐに否定した。
たしかに世界が機械で満ちていた——1000年前なら、宇宙にロケットを飛ばそうとしていてもなんら不思議ではない。しかしそれはやっぱり、わたしがここにいる理由とはなんら関係のないことに思えた。


「…まあ、いいや」


ウータイの歴史や、スピラとこの世界の繋がりがどうであれ、旅は続くんだ。
ここで立ち止まってしまいたくはない。