A stolen treasure



祭壇にクラウドたちが現れて神殿を離れると、ほどなくして地響きが鳴り、神殿が黒い光に包まれる。


「…ケット・シー」
「悪い子じゃ、なかったよね」


エアリスが小さく言った。
最後に会話をしたのはエアリスたちだった。ずっと敵を見る目で——事実敵だったわけだけれど——ケット・シーを見ていたはずのエアリスが、寂しげな表情を浮かべている。


「最後、何か言ってた?」
「うん、ケット・シー、わたしとクラウドの相性、占ってくれた」
「…どうだった?」
「二人の星、幸せな未来が約束されてます!って」
「そっか…よかったね」
「…うん」


エアリスはここにくるまで一言もケット・シーとは会話していなかったはずだ——そもそも会話していたのは自分くらいのものだと思うけれども。いまだにケット・シーを操る誰かに人質を取られていることには変わらないが、それでもケット・シーを信じることにしたらしいエアリスは、こうして少し寂しげに神殿が小さく折りたたまれてゆくのを見ている。


神殿はほどなくして姿を消し、そこにはただ土を削られたあとだけが残る。
神殿のあったそこへと歩み寄ると、中心に黒く四角い物体がふよふよと浮かんでいた。クラウドと、エアリスが駆け寄ってそれを掴む。


「これを俺たちが持ってるかぎり セフィロスはメテオを使えないってわけだ…ん?俺たちは使えるのか?
「ダメ、今は使えない。とっても大きな精神の力が必要なの
「たくさんの精神エネルギーってことか?」
「そう、ね。ひとりの人間が持ってるような精神エネルギーじゃダメ。どこか特別な場所。星のエネルギーが豊富で……」


エアリスは少し考えた後に顔を上げた。


「あっ!約束の地!!」

その時、どこかから冷たい何かが吹きつけて、ぶるりと体が震える。それに気づいたヴィンセントがちらりとこちらを見るが——わたし以外のだれも、それに気づかなかったようで静かにクラウドとエアリスの方を見ていた。それが妙にわたしの中の嫌な予感を増幅させてゆく。そもそも——その黒マテリアをクラウドが持っていて、本当にいいのか?


「約束の地だな!!いや、しかし……」
「セフィロスは、ちがう。古代種じゃない。
「約束の地は見つけられないはずだ」


「……が、私は見つけたのだ」
「…っ!」


声が響く。それはこの旅が始まってから何度も聞いた——セフィロスの声。
再びそこにはセフィロスが立っていた。


「私は古代種以上の存在なのだ。ライフストリームの旅人となり 古代の知識と知恵を手に入れた」
「古代種滅びし後の時代の知恵と知識をも手に入れた…そしてまもなく未来を創り出す」


——黒マテリアで、メテオを呼ぶ。星を壊し——一つに。
セフィロスが古代種の神殿で語っていたことが、頭の中で再生される。


「そんなこと、させない! 未来はあなただけのものじゃない!」
「クックックッ……どうかな?」


だれも、そこに口を挟めない。ただわたしたちは呆然と立ち尽くして目の前のやりとりを傍観するしかなかった。


目を覚ませ、そう言うセフィロスに、クラウドの様子が変わり、言われるがままに黒マテリアを渡すところも。それを受け取ったセフィロスが、ごくろう、と一言声をかけて消えてゆくところも。


「クラウド、だいじょぶ?」
「……俺はセフィロスに 黒マテリアを……?お、俺はなにをしたんだ…… エアリス、教えてくれ」
「クラウド……しっかり、ね?」


「クラウド、中に…誰か、いる…?」


小さく呟いたそれに、ティファが大げさなくらいびくりと震えた。
ティファは耐えられなくなったように、エアリスとクラウドの元へと駆け寄る。ちょうどそのタイミングで、森から新しいケット・シーが飛び出してきたが、誰もまともに受け答える余裕がない。


「まっしろだ……俺はなにをした? おぼえていない…記憶…いつからなのか…? すべてが夢ならさめないでくれ」


クラウドの悲痛な声が、辺りに響き渡っていた。