Don't think, just walk.



クラウドがエアリスを抱いて、入り口の水場へと運ぶ。ゆっくりと彼女を水につけると、彼女の髪がさらりと広がった。閉じられた瞳、祈るように組まれた手。今にも瞳を開けて、おはようって、そう言ってくれそうなくらいに穏やかな表情。


ふわりと、クラウドが腕を離す。遺体が、水底へ沈んでゆく。


——ほら、僕の言った通りだろう。
どこからともなく声が響く。


(…もう、やめて…)


——君には、大切な人は救えないんだ
——僕を救えなかったのと同じように…


(…わかってる、わかってるよ……)


5年前ここにきて、新しい人生が始まるような気がしていた。
きっとここにいることには何か大切な意味があって、それを果たせば——罪も、許されるんじゃないかと、そう思っていた。


壊れない体と、強力な魔力と、召喚獣の力と。
スピラにいたときよりもずっと強い力を手に入れた。命を引き換えにして得た能力。この世界に来てからは、守るために使いたかったもの。
——だれも守れないのなら、こんな力はないも同然。


開いていた心の扉が閉じる音が聞こえた。光の差し込んでいたそこを閉じれば、あとは視界に広がるのは闇ばかり。それでも構わないと思った。







「みんな、聞いてくれ。俺はニブルヘイムで生まれた元ソルジャーのクラウドだ。セフィロスとの決着をつけるためにここまでやってきた」


再び古代種の住んでいたという民家で夜を明かして、次の日の朝、クラウドはそう語り始めた。
ティファやバレットは真剣に聞いている。相変わらずざわざわとざわめく星の声が伝えようとすることはわからないし、それを知っていたエアリスはもういない。クラウドの中にある、クラウドも知らない何か。それは明らかに、セフィロスの味方をしている。クラウド自身がセフィロスを憎んでいたとしても。


「でも、俺は行く。5年前、俺の故郷を焼き払い たった今エアリスを殺し そしてこの星を破壊しようとしているセフィロスを……俺は許さない。俺は……俺は、行かなくてはならない」


皆、それに力強い表情で頷いている。
強いな、と思う。わたしも、行かなくてはならないと、わかっている。理解できないとしても、星の声を聞くのはわたしだけ。世界を滅ぼそうとしているセフィロスを、止めようとしているのはここにいる皆だけ。


「エアリスがどうやってメテオを防ごうとしたのかはわからない。今となっては俺たちはそれを知る方法もない……でも!まだ、チャンスはある。セフィロスがメテオを使う前に黒マテリアを取り返すんだ」


何かを考えていたら、動けなくなりそうだった。だから、クラウドの言葉に、頷いた。



「行こう」


とにかく、何も考えないで、ただ、先に進みたかった。
立ち止まってしまったらもう二度と、動けなくなってしまうから。