The ship that saves the star



ミディールの町で武器や防具、マテリアを揃えていたところで、ケット・シーが「1時間ほどで会議が始まる」と皆を呼びに来た。いっそ清々しいくらいに開き直ったケット・シーは、揶揄うバレットを受け流しながらハイウィンドに戻るとすぐにその様子を流し始める。少しのノイズがざあ、ざあと響いた後、少しずつ明瞭になる声はロケット村や大空洞でも聞いた若い男の声——ルーファウス神羅だった。


「さて……我々はふたつの課題を抱えている…1 メテオの破壊 2 北の大空洞のバリアを取り除き セフィロスを倒す。何か作戦は?」
「ガハハハハハ! すでに最初の課題はクリアも同然!メテオはまもなくコッパミジンですな!そのための作戦はすでに実行に移しておるのです。それは各地のヒュージマテリアの回収なのです」
「ほう……」


(ヒュージマテリア…?)


聞き慣れない言葉に皆で眉を寄せると、ルーファウスもまた同じことを考えたような声を漏らしたからか、聞いたことのない女の声がヒュージマテリアの説明を始めた。——魔晄炉内で圧縮されて生成される 高度に集積された特別なマテリア。いくつも集めて、メテオにぶつける。近づいてくる星々をその力で壊すために。


「それはご心配なく!それよりも、まずは各地のヒュージマテリアを回収すること」
「すでにニブルヘイムは回収終了。残るはコレルとコンドルフォート…コレルはすでに軍隊を向かわせております、ガハハハハハ!」


ガハハ、キャハハ、と笑う二人の男女の高笑いにケット・シーは顔を顰めて電源を落とした。きっと彼らと同じ場所にいる彼もまた同じ表情を浮かべているのだろうと容易に想像できて少しおかしかったけれど、空気を読んで無表情を貫く。静寂の戻った部屋でバレットがわなわなと震えている。


「コレルだと〜!!これ以上コレルをどうしようってんだ!」
「それにヒュージマテリア……大きなマテリアのことでしょ? オイラ、聞いたことがあるんだ。えっと、オイラたちの小さなマテリアを大きなマテリアに近づけると何かがおこるはずだよ、きっと…だからオイラたちがマテリアの力を借りて戦いを続けるのなら……」
「ヒュージマテリアを神羅に渡すわけにはいかねえ!」


バレットの言葉に皆頷いた。何ができるだろうか、そう考えてふと、呟いた。


「……奪いに行く?」
「奪いに?」
「魔晄炉の場所は分かってるんでしょう。彼ら神羅が手に入れるよりも先にわたしたちが手に入れてしまえば…ニブルヘイムのヒュージマテリアはどうするか、また考えないといけないけどね」
「…悪くないアイデアだ」


ヴィンセントがそう言って、他の皆も同意する。クラウドとティファを待つ間、できることは全てしておきたいという思いはきっと、わたしだけではなくて、ここにいる誰しもが思っていることなのだと思う。皆、メテオのこと、セフィロスのこと、神羅のこと、どれ一つとして諦めたくはないと、そう思っている。


「クラウドが帰ってきたらヒュージマテリア見せてよ、びっくりさせてやろうぜ」
「なぁ〜んや、バレットさん、なんやかんや、言うても クラウドさんが帰ってきはったらええなと思ってはるんや」
「いいじゃねえか、そんなことはよ」


バレットの気まずげな表情に笑みがこぼれた。
ニブルヘイムで初めて会った時にはもう彼らの間に特別な絆で結ばれていたように見えたけれど、それは決して初めからそうだったわけではないのだと、エアリスがこっそり話してくれたことがあった。彼らは初めからセフィロスを追いかけていたわけでもなければ、アバランチのメンバーだったのはバレットとティファの二人だけで、クラウドは雇われただけの「何でも屋」だったらしい。そんな様子は少しも見せず前に立ってセフィロスを——そこにどんな理由があったとしても——追いかけていた、クラウドを思い出す。そしてあの時にはいなかったはずのわたしやヴィンセントも、敵のはずのケット・シーも、今は皆がクラウドを信じている。それは奇跡のようだった。悲しみに満ちたこの世界で、こうして皆と出会って、旅をして、今はこんなにも強い絆で結ばれている。


リーダーを決めようと言ったバレットが、シドに声を掛けた。自分は向いていないと、そう言った彼は面倒そうにしているシドに熱く語りかける。


「これは星を救う船だぜ。その大切な船を仕切ってるのは誰だ? あんただろ?だからオレたちのリーダーは シド、あんたしか考えられねえ」


星を救う船。メテオが迫り、この星の全ての命が危機に瀕していても、まだ希望を信じられる。それはきっと、こうして大切な仲間たちが誰も希望を捨てずに、前へ進もうとしているからだ。


「へ……星を救う船か。……ちょっと熱いじゃねえか。今のはハートにズンと来たぜ…オレ様も男だ!やったろうじゃねえか! オレ様についてきやがれ!」


バレットの言葉に、シドの言葉に、胸が熱くなる。


スピラにいた頃、わたしは最後まで希望を信じることができなかった。あのころわたしたちはたったふたりで旅をして、挙句彼をひとりにしてしまったわたしはきっと、間違っていた。


——今度は、だれも一人にはさせたくない。
そう、強く思った。






はじめの目的地、コレル魔晄炉へ向けて飛空挺は動き出す。ごう、と音がして飛空挺が浮き上がった瞬間、ユフィは大袈裟なくらいにびくりと震えてコックピットから出て行った。


「…ユフィ、大丈夫かな」
「しばらく乗っていれば慣れるだろう」
「でも吐いた分食べないと辛いだろうし、バナナでも持って行ってあげようかな」


ちょうどミディールで買ったおやつがいくつか鞄に詰め込まれていたので、下を向いて鞄を漁る。——いつも思うけれど、この飛空挺という乗り物は空を飛んでいるとは思えないくらいに安定していて、タイニー・ブランコでの不安定な移動どころかバギーの移動よりも静かだ。一体ユフィはこの飛空挺の何に酔っているのだろうと思わずにはいられないけれど、ひとまずビニール袋の予備と果物を持ってコックピットを出た。


「ユフィ、大丈夫?」
「これが大丈夫に見える?アタシはね…船は…ウップ」
「吐いた分は食べた方がいいよ、吐くものがなくなっちゃってからが一番大変だから」
「ああ…ありがとう…」


開けたその場所の隅で座り込んで袋を抱きしめているユフィに声をかけると、彼女は口元をビニール袋から離さずに視線だけをこちらに向けた。飛空挺が動き出してまだそう時間も経っていないのに、顔は青白く、心なしか窶れているようにさえ見える。綺麗な黒髪を冷や汗で濡らして、口をあげるたび空いた手で額の汗を拭っていた。


「1時間くらいで着くとは思うけど…ユフィはここで休んでたほうがいいかもね」
「バカにすんな、アタシだってちゃんと上陸すれば…ウッ」


最後まで言えない彼女の背中をゆるく摩ってやるとまた袋の中に吐き出した。大丈夫かな、と心配しつつも強がる彼女が妙に可愛らしくて思わず笑みが溢れる。メンバーの中でもかなり年下の彼女はどこか妹のようだと思う。コックピットを出入りする仲間たちや神羅の服を来た乗組員たちが近くを通りがかるたびに心配げな目を向けているのを感じながらユフィの背中を撫で続けた。


飛空挺の強みはその速さだとつくづく思う。
つい先ほどまでいた南の島をあっという間に離れて、やがて少し地面が揺れる。そうして、オペレーション・ルームから出てきたシドが到着を告げた。