We all will be in the tomorrow she wished.



滝が祭壇を内と外とに分けて、そこに小さな部屋を作り出していた。きらきらと光る水のカーテンを潜って中へ入ると、水面に当たって反射する光。はじめは白いばかりだったそこに少しずつ新しい色——桃色や緑が加わって、何かが映し出されようとしている。ブーゲンハーゲンさんもそれに気づいて、興奮したように叫んだ。


「ここはイメージを投影するスクリーンだったのじゃ!見てみい! 水のスクリーンにうつったイメージを!」


そして少しずつはっきりとしてきたその映像が何を表すのかに気づいて思わず、息を飲む——桃色は彼女の服の色、緑は彼女の、瞳の色。その映像が映し出していたのは、あの時、わたしたちを置いて姿を消した彼女が——エアリスが、祭壇で一人祈りを捧げていたあの瞬間。


わたしたちはあと一歩だけ遅くて、彼女が殺されるのをただ黙ってみていることしか、できなくて。彼女を刺したセフィロスの大きな剣が彼女から抜かれると、エアリスは何も言わずに倒れた。そして髪につけられていた飾りが水面へと落ちてゆく——淡く、緑に輝きながら。


「……輝いている」
「ホーホーホウ!! あわ〜いグリーンじゃ!!」
「……エアリス。エアリスはすでにホーリーをとなえていたんだ……俺がセフィロスに黒マテリアをわたしてしまったあと…… 夢の中のエアリスの言葉……セフィロスを止めることができるのはわたしだけ……その方法が、秘密がここにある……そう言ってたんだ」
「エアリスの髪留めが、白マテリア……エアリスの思いは星にちゃんと、届いてたんだ……」


エアリスはわたしにも言っていた——わたしの役割と、エアリスの役割は違う。古代種の彼女には、古代種にしかできないことがあるのだと。星と語り、星の声を聞く。わたしには聞くことしかできないこの星の意識と、心を通わせて、助けを、求める。それが彼女の、役割。そして彼女の祈りはもう、届いていた。


「エアリスは俺たちに大きな希望を残してくれた。けれども、それはエアリスの命……エアリス自身の未来とひきかえに……」
「……エアリスは、そんなつもりじゃなかったと思う、けどね」


あの光景は、エアリスの命が消えてゆく瞬間は、誰も自分から見たい映像ではないはずで。ごく自然に、右目から一筋涙が伝った。胸が痛くて、苦しくて……エアリスに、会いたくて。この世界ではじめてできた、大切な人。今もなお、ライフストリームの流れの中でわたしたちを見守ってくれている、大好きな女の子。


「……ちゃんと、帰ってくるつもりだったと思うんだ。エアリスは……自分の命を犠牲にして大切な人の命を守ったところで、心までは守れないんだって……言ったの。エアリスは頷いていた……」


彼女は逝ってしまった。わたしは結局彼女を守ることも、側にいることもできずに。エアリスはわたしよりもずっとずっと強い女の子で、たった一人でも、最後まで戦っていた。最後の瞬間まで希望を捨てることなく——否、きっと、今もなお。



「わたしも、ユリアと同じ気持ちかな。きっと、死ぬことなんか考えなくて ちゃんと帰ってくるつもりだったんじゃないかな?だってエアリス、よく言ってたもの。また、この次は、今度は……エアリス、他の誰よりも明日のこと話してた……」


そんなエアリスが残したもの。きっとわたしたちの——みんなの、明日に繋がる。エアリスは今でもわたしたちを見守って、応援していてくれている。だから、わたしたちは。


「ごめんよ……エアリス。もっと早く気づいてあげられなくて……一言も言葉をかわすことなく 俺たちの前からいなくなってしまったから…… 突然だったから、俺は何も考えられなくて……だから気づくのが遅れてしまった…… でも、エアリス……俺、わかったよ」


映像の消えた水のスクリーンに、透き通った魔晄の瞳が真っ直ぐに向けられた。


「エアリス……あとは俺がなんとかする」

「俺・た・ち・だよ」
「うん、みんなで、エアリスが繋ごうとした明日に、いっしょに行きたい……」


ここで星が壊れたなら、きっとわたしも共に壊れてしまう。ライフストリームに流れた意識も何もかも全て、セフィロスに絡めとられて消えてしまう。希望。この旅で幾度となく聞いて、幾度となく意識させられた言葉。その言葉の意味がようやくわかりつつあった——それはきっと、エアリスが望み、皆が望み、わたしの望む、明日へゆくこと。


そして、そのためにはきっと、ホーリーが必要。エアリスが求めた、星を救う手立て。確かに緑色に光ったそれはけれど、なぜか発動された様子はない。


「緑に光っているはずの白マテリアが発動しないのには、何か理由がある…?」
「そうだ、どうしてホーリーは動き出さない?なぜだ?」


わたしの呟きに強く頷いてクラウドが言う。答えを出したのはブーゲンハーゲンさんだった——それを、邪魔している何者かがいる。そんなことをするのも、できるのも、きっと一人しかいない。


「……セフィロス。どこにいるんだ?」
「……それは、きっと……」


大空洞は光の大きなバリアで守られているのだという。何のためにそんなことをする?その奥に守られて、メテオを待つだれかが、いるのだとしたら。もし、それを倒せばホーリーが無事に発動するのだと、したら。


「ホーリーが人間に牙を向くかもしれなくても……ホーリーを発動させるの?」


クラウドに、ティファに、バレットに。尋ねた言葉はけれど、迷いのない肯定で返される。


「オイラはよく、分からないけど……エアリスがオイラたちの明日のために命を懸けて発動したものなら、オイラはそれを信じるよ」
「ああ、オレもだ」
「わたし、も」
「……そう、だよね」


よかった。そう呟くとクラウドもティファも、バレットも、皆、強く頷き返してくれる。


「飛空挺へ戻ろう。……大空洞はバリアで守られているが、何か方法があるかもしれない」
「うん。そうだね」


クラウドとティファがそう話し合うのを聞きながら皆で、滝で囲われたその小部屋を出る。エアリスの残した希望の眠るこの遺跡の街には今はもう、滝の降り注ぐごうごうという音だけが響き渡っていた。今はもうわたしにしか聞こえない古代種の意識はただ、ホーリーを求めている。——そして、わたしたちも、皆。


少しだけ、安心している自分がいた。
こちら側とあちらが側との境界線は、時に残酷なほど明確にわたしのすぐ目の前に突きつけられる。決してこの線を越えることはできない。それでも、わたしもヴィンセントも、クラウドやティファや、みんなと同じ思いを持って、同じ希望を抱くことが、できて。


「ヴィンセント」
「……ああ」
「わたしたちも……エアリスの望む明日に、いてもいいんだよね」
「……少なくとも、エアリスはそれを望んでいるはずだ」


わたしたちは二人とも弱くて、わたしたちだけではそれに確信を持てない。生きることを肯定するという行為が限りなく難しいことで。でも、仲間の思いがそれを支えてくれている。だからわたしも、わたしたちも、同じ明日を望みたい。


「……この旅が終わったら、ヴィンセントはどうする?」
「……どうだろうな」
「棺桶にはもう、戻らないでしょ?」
「……一度動き出した時はもう、止められまい」


だから、わたしたちは今を、そしてそれを積み重ねた先にある明日を生きてゆく。