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狭い道を這って進むことに名前は慣れているわけではない。
況してどこまでつづくか分からない、進んでも進んでも続くトンネル。息を乱しながらも進んでゆく。


不意に、近くの出口からうめき声が聞こえた気がした。


「…だれか、いる…?」


この通気口を名前と同じように這って進んだだろう人の跡はまだ先まで続いている。しかし彼女の体力でこれ以上先に進むのは難しいだろう。名前はその通気口に張られた網状のカバーを足で力いっぱいに蹴り上げる。音を立てて開いた出口から下を覗いた。


「エイト」
「かしこまりました」


少し高い所にある其処から、サイレント・マジシャンの力を借りてふわりと地面に降り立つ。まず自分の格好を確認し、パンパンと白いワンピースをはたいた。


「うーん、やっぱり黒ずんじゃったなあ」


仕方ない、とため息をついて前方を見ると、真っ赤な制服に身を包んだ少年が前のめりになって倒れているのが名前の視界へと飛び込んできた。
ーー遊城十代。名前はヨハンの話を思い出した。彼は有名人だし、ヨハンから話を聞くよりも前から彼のことは知っていた。そしておそらく彼も此処にいるだろうということも。


「十代くん、起きて」


初対面の人間に、少しだけ緊張したけれど今は躊躇っている場合ではない、と歩み寄って体を揺する。うめき声を上げながら瞳がうっすらと開いて。


「ヨハン!」


そう叫んで起き上がった。名前はその声で驚いたように目を見開く。
ーーヨハンに、何かがあったの?


「って、お前は…?」
「ヨハンに、何かあったの?」
「!ああ、ヨハンのサファイアペガサスが捕まって…アイツ、一人で行ったのか!」
「捕まる…精霊が?そんなことって…」
「ああ。…お前が誰かは知らないけど、ヨハンの所へ急がないと…」


十代が蹌踉けながら立ち上がる。


「わたしも、連れて行ってくれる?」


紫の瞳が強く十代を見つめた。十代も同じだけの強い眼差しを名前に返す。


「ああ。行こう!」


名前は、蹌踉けながらも歩き出す十代の肩を支えながら歩き出した。



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