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「やっぱり、お前は強いヤツだな」


ーーヨハン。
十代がそういって俯くのを名前は見た。座り込むヨハンは笑っている。


ヨハンのデュエルをする意味。アイデンティティの根幹に関わるそれ。名前は聞いていないけれど、おそらく十代は知っている。そしてそれをうらやんでいるのだろう。彼ら2人の間に起きたことを知らない名前はヨハンが微笑みながら十代にかける言葉を黙って聞いた。


「アニキ!」


突然この中の誰でもない声が響いて、名前は反射的に固まった。
そして今更のように十代相手には普通に会話できていたことに気づく。彼女は本来人見知りなので、見知らぬ人の声には怯えてしまうことも多い。それに気づいたヨハンが名前の手を握った。


けれど、


「え…」
「あなた、名前…!?」


薄緑の髪の少年の向こうから一緒に走ってきた金髪の影。部屋に入ってきた彼女をみて名前は驚いたように瞳を見開いた。


「なんだ、知り合いか?コイツ、ヨハンの彼女の…」
「ヨハンの彼女ォ!?一体いつの間に!?」


十代の言葉を遮るように驚いたような声を上げる翔、けれど金髪の女性ーー明日香は黙って、ヨハンに手を握られる名前をみつめていた。


「明日香もね、いるんじゃないかって思ってたの。デスベルトの話を聞いて心配していたけど、元気そうでよかった」
「…わたしも、名前が元気そうだって分かってほっとしたわ。きっと貴方のことを聞けば兄さんも亮も、」
「明日香」


ーー今はとにかく、やるべきことがあるんでしょう。
その先を聞きたくなかった。天上院吹雪、丸藤亮。アカデミアの「双璧」。名前はヨハンの手を離すと立ち上がった。心配そうに無言で此方をみるヨハンに大丈夫だと微笑みを返して。


「わたし、藤原名前っていいます。明日香とはアカデミアの中等部のときの、お友達。今、わけあって、此処にいるけど、敵対するつもりは、なくて、だから、」
「一緒に行きましょう」
「明日香、ありがとう…」


俯きがちにそう言った名前に明日香が微笑んで、そしてやっと場の空気が落ち着いた。後ろにいた帽子の男が微笑みながら右手を差し出す。


「It’s alright, 名前。俺はジム。よろしくな」
「う、うん…よろしく」


それを皮切りに剣山や翔も自己紹介をすると、皆立ち上がって歩き始めた。
ーーそれを見ていたカメラの向こうで起きていたこと、彼女が辿った通気口の跡の主のことに、彼らが気づくことはない。そして、それを見つめる不気味な瞳のことも。



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