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あれから1週間、ほとんどルビーのお陰だけれども迷子になって遅刻することもなくなり、無事に留学第1週目の授業が終わって。十代やその仲間とも仲良くなったヨハンだったけれど、あの時出会った紫色の優しい瞳を忘れることはなかった。


「その、休日はあまり出かけたくなくて…部屋に、といっても研究室みたいなところだけれど、きてほしい…」
「ああ!どこへ行けばいいんだ?」
「オベリスクの、女子寮に」


PDAの向こうで少し恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑う名前にヨハンも心が温かくなるのを感じた。オベリスク女子寮裏の非常口を入ってきてほしいという名前にヨハンはオベリスク女子寮の場所を思い浮かべるが分からないーーまあルビーが分かるだろう、と自己完結して了解の意を伝えれば映像は途切れ、視界には未だ少し慣れない、留学生に与えられた自室の風景が広がる。部屋が個室でよかった、こうして誰も気にすることなく名前と話せるのだから。ベッドに横になって白い天井を眺める。


「すみませーん!迷子になって森を彷徨ってて…」
「森って一体どんな迷子になったらそっちへ行くノーネ!」
「俺方向音痴で…気をつけます」


明るくそういうヨハンに呆れたように笑う眼差しが向けられたあの時のことを思い出す。出会って数日なのに親友のように仲良くなった十代のとなりに座ると、その隣に座っていた翔も溜息を吐いていて。そうして俄かに騒がしくなった教室は再び授業に戻り、静寂を取り戻した。


「ヨハン、なんかいいことでもあったのか?」
「どうして?」
「なんか楽しそう」


そう小声でいう十代に、ヨハンは唇に人差し指を当ててウインクした。


「秘密」


頭にクエスチョンマークを浮かべる十代を見ながら笑った。



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