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「でさ、十代のこの攻撃を俺がこうしてやったワケ」
「あら、でも手札にこれがあったならこういう風にしたって…」
「いやでも俺はこっちを狙っていったんだ」
「そうするとこっちは…」


オベリスク女子寮の隅。他の部屋とは少し異なって豪華さはあれどどちらかというと研究室の趣のつよい広い部屋の、ソファに座って、カードを広げる2人。ヨハンは今日も名前の部屋に遊びに来ていた。十代と語り合うのは何より楽しかったしワクワクするけれど、ヨハンはそれと同じくらい目の前の少女と過ごすこの穏やかな時間が好きだったから。


「名前は戦術が緻密だよな」
「そうかしら?まあ理論を勉強するのは好きだから…」
「デュエルしたら強そうなのに」
「そう、かな…でも、わたし、デュエルはしないから」


そうしてヨハンは、時折影のかかる名前の表情にも気づくようになって。


「ま、俺はこうして話してるだけでも楽しいからいいんだけど」


そう言って笑うので、名前はいつも救われていた。
初めて会った時から時折会うようになった2人が仲良くなるのには時間が掛からなかった。それは精霊が見える者同士という共通点とか、互いのカードとの関わり方がーーデュエルモンスターズを家族だと思うその感情が似ていたからとか、色々なことが起因していた。ヨハンは名前のことを誰かに話さない代わりに、自分がこのデュエルアカデミアに来て出会った人々の話を##にたくさん話して聞かせた。名前にとっての世界がこの部屋と彼女の精霊、そしてヨハンだけであることをヨハンはよく知っていた。こうしてアカデミアの寮に他の人から隠れるようにして暮らしている彼女の抱えているものは分からなくても、こうして自分との関係を秘密にして誰にも見つからないようにしてここで息をすることの意味は察していたから。


名前はそんなヨハンと過ごす時間がすぐに大好きになった。
ヨハンはいつだって彼女に気を遣って、名前が抱えている秘密を、隠していたいことを隠したままにしていてくれる。話したくないことを、聞かずにいてくれる。そうして自然に話を変えて自分は何もしてないみたいな顔をして笑って。長い間人と会ってなかったのでどうしても不自然な距離感も心地よいものにしてくれる。目の前のこの少年には不思議な魅力がある。


「その、十代くん、面白そうな子だね」
「ああ!そうなんだ、此処に来て出会った1番の親友さ」


名前は外の世界を長いこと見ていなかったけれど、それを楽しそうに話すヨハンの話を聞くのはとても好きで、時間は飛ぶように過ぎていって。


「ああ、もうこんな時間か、帰らないと」
「本当だ…」


別れ際に少し寂しく感じる名前にだってヨハンは、またな、と言って笑って見せるので。


「待ってる」


そう返して消える影を見送っても、口許の微笑みは消えないでいる。ヨハンの微笑みだけが部屋には残っていて。それは彼女の心を暖める。


「マスター、ヨハンのことが好きなの?」


そんな名前を少し幼い顔をしたサイレント・マジシャンレベル4が見上げていた。。名前はソファに腰掛ける。先ほどまではヨハンが座っていたこの場所。まだ暖かい。ふわりと、ヨハンの存在が薫った気がした。


「ええ、好きよ」


今は未熟なこの思いだけれど、きっとこれから加速してゆくだろう。
ーーもっとヨハンのことが知りたい。



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