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ヨハンに充てがわれたブルー男子寮の一室は1人部屋とは思えないくらいに豪華で、ヨハンはなかなか慣れずにいる。同じ広さをもつ部屋なのに、名前の部屋はあんなに居心地がよかった。


はじめて出会った時に感じた気持ち。名前の美しさと、その透き通った雰囲気。それは彼女が人と関わらずに生きてきたから、抱えているだろう苦しみや痛みを誰に打ち明けるでもなく、たった1人で。デッキのモンスターだけが彼女の話し相手で、彼女が家族と呼ぶ彼女たちの神々しさに、彼女の雰囲気はよく合っていた。あの部屋は同じ島の中にいてどこか別の世界であるように思えたのは、きっと、彼女がそこにいるから。彼女と、彼女の家族たちの周りはいつだって眩しい。それが彼女の1番魅力的なところだとヨハンは思っている。


「ヨハン、十代といない時はいつも名前のところに行ってる」


くすくすと笑うアメジストキャットは、その行為の意味することを分かっていて笑っているのだろう。少しだけ恨めしげにそちらを見ながら悪いかよ、と呟けば、いいえ、別に何も?なんて言いながらも笑うことをやめない彼女からはもう、彼女が最初に抱いていただろう嫉妬心は感じられない。


はじめは、近づくことにさえ勇気がいるくらい、この世のものではないような神聖さを感じて。話してみればふつうの女の子。でもやっぱりまとう雰囲気はどこか浮世離れしている。精霊を愛し、聡明で優しい、けれどどこか寂しそうな。少しずつ彼女を知るたびに。実は人見知りだとか、サイレントマジシャンが大好きなこととか、デュエルやデュエルモンスターズに関する幅広い知識をたくさん持っているところとか、それを語る楽しそうな瞳とか。ヨハンの話を聞く、子供みたいな表情とか。それが、ヨハンの心に小さな波を立てて。


周りを見渡すと、黒いソファも、壁いっぱいに置かれた本棚の本もない。そしてあの優しい存在も。それがこの豪華な部屋がどこか色褪せて見える理由かもしれない。


「るびるびっ?」


ルビー・カーバンクルがふわふわとヨハンの周りを漂いながら首をかしげる。ヨハンは笑った。ーー名前のことが好きなの?なんて。


「ああ、好きだよ」


帰り際の寂しげな表情が再会の約束で微笑みに変わった一瞬は、世界で1番美しい一瞬だった。
ーーもっと名前のことが知りたい。



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