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北米ではなくドイツに進学を決めたのはユベルのルーツがドイツにあると知っていたからだ。ヨハンはもともとヨーロッパの出だし、一緒になることは予想がついていた。そうして始まったカレッジライフにおいて、わたしとヨハンは完璧なカップルだった。2人で一緒に暮らしながら、時にデュエルをし、時にデッキの構築について討論をした。時にパーティで腕を組んで歩き、友人の前で熱く口付けを交わした。ヨハンに腰を抱かれるわたしにいくつもの羨望の眼差しが寄せられていたことを知っていたし、ヨハンに対して同じものが寄せられているのも知っていた。ーー美男美女、とかカレッジの成績トップ1、2カップルとか、そんな風に周りがわたしたちを囃し立てたので、わたしたちは早いうちに互いの、そして己の周りからの評価を知っていたからだ。わたしたちは周囲が求めるまま、期待するままに完璧なカップルを演じて見せた。


けれど家に帰れば、愛し合う2人は泡のように溶けて消える。
外で話すのは今日の食事や、互いのデュエルの話。家に帰ればそれは全て、十代とユベルの話に置き換わった。彼らが今何をしているか、叶わぬ想いを抱くもの同士の傷の舐め合いに過ぎない行為。互いが互いの想いを誰よりも理解しているという信頼に結ばれながら、互いが互いに残る愛する人の痕に嫉妬し、憎しみ、時にわたしたちは傷つけあった。また時にその想いがいかに深いものであるかを語り合って、ワイン1本で夜を明かした。また時にわたしたちは、それぞれに愛する人を想って、その傷跡を求めて体を重ねた。わたしはその身にユベルを宿していたヨハンのその心臓の鼓動さえ許せないのに、彼の心臓が鳴る音にユベルの影を求めて擦り寄った。ヨハンは十代が弄ったわたしの中を壊したくて仕方がなさそうにしながら、その肉に己の肉を入れて果てた。それは酷く非合理なようでいて、とても合理的な関係だった。行為の最中に彼はいつも譫言のように十代、と囁いたし、わたしもユベルの名を呼んで絶頂した。


「こうしてセックスした後に隣にいるのが十代だったらよかったのに」
「わたしだってあなたを求めているわけじゃあないわ」


放つ言葉は全て本音であったけれど、それがヨハンを傷つけないことも、わたしがそれに傷つかないことも分かりきっていた。わたしたちの関係を支える信頼は互いが互いの思いを確かめ合うことのできる唯一の存在であるという確信に起因していた。わたしたちは性格も性別も生まれた場所も愛した人も異なっていたのに、運命的なほどに似通っていた。だって。


だって、愛した人は違うのに、その愛情が許されないものであることさえ共通しているのだから救われない。わたしたちは互いに、その思いを互い以外の誰にも打ち明けることをしなかった。だからこそ外では理想的なカップルを演じていたのだ。それは決して同性を愛することが禁忌だとか、種族を超えて愛することが許されないとか、そんな陳腐なことではなく。あの2人が、それを認めないことを知っていたからだ。十代はユベル以外からの愛情を受け取らないこと。ユベルは十代以外にその愛情を渡さないこと。2人で完結する世界がどこまでも美しいことは十代に嫉妬するわたしでも認めざるを得ない事実だった。そしてその世界の美しさをヨハンもまた感じていた。わたしたちは互いに、互いの抱く愛情をおくびにも出してはいけない、あの美しい世界を壊してはいけないと固く誓い合った。そうしてまた、彼らの描く世界の眩さについて語り合って、体を重ねるのだった。それはいっそセックスよりも、マスターベーションに近い行為だった。



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