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「そうですね、基本的に人の心、記憶が読めます。どのくらいの距離まで読めるのかは調べたことはありませんが少なくとも地球上にいれば大丈夫です。見ず知らずの人だと困りますが、知り合いの知り合いくらいなら探せます。」


そうすらすらと説明をするなまえに座って聞いていた霊幻、芹沢、モブ、ついでに浮遊していたエクボはぽかんと口を開けて呆然としていた。芹沢が相談所で働きはじめてから数日後、少しだけ遅れて入ってきた新人の思いがけない強力な能力に、誰もが返す言葉を失っていた。


「…あー、つまり、例えば浮気調査にきた女性がいたとして、対象を追いかけるまでもなく相手の素行を調べられるってわけ?」
「まあ普段そうやって使うような力じゃあないですが、そうなりますね」


やっぱり霊幻さんは冷静だな、隣で静かに芹沢は思った。


「あなたが、爪にいたっていう芹沢さん?」
「えっ!?あ、うん…そ、そうだけど…」


唐突に話しかけられたことで、ただでさえ見知らぬ人と会話をするのにはまだまだ慣れない芹沢が大きく肩を震わせる。なんとか返事をするとなまえは何を考えているのかよくわからない無表情で頷いた。


「幹部の方なんでしょ?名前は知っています。実は峯岸さんや羽鳥さん、島崎さんと柴崎さんはよくわたしの…わたしの住んでいた部屋によく遊びにきていたわ」
「ええっ!?じゃあ本当に知らなかったのは俺だけ…」


繰り広げられる、世界征服を目論む組織の話とは思えないような気の抜けた会話に、霊幻から生暖かい目が向けられている。当然主に芹沢に対してである。芹沢は「自分がなんとなく組織に溶け込めていなかった気がする」という感覚が今更ながらにそこまで間違っていなかったのではないか、ということに気づき再び肩を震わせていた。そしてモブはといえば、自らのサイコキネシスに匹敵するような強力な超能力ーーけれど決して直接人を傷つけるものではないーーの持ち主に感動している


「みょうじ…さんは、そんな強い力をコントロールして生きてるんですね…」
「あなたはボスを倒したモブくん?よね。わたしの力なんて君のそれに比べたら大したものじゃあないのよ…」


その一言はなまえに対してなんらかの動揺を与えたようだった。テレパシストではないモブにはわからない複雑な表情を浮かべて、みょうじは少しだけ俯いた。それを芹沢は不思議そうに眺めていた。


少しだけ気まずげな雰囲気が流れた相談所だったが、それも一瞬のことだった。


「あの…すみません」
「おや、お客様ですね。除霊のご相談ですか?」


不意に開かれた扉の向こうに見えた男性の一言に、霊幻は今までの会話などまるでなかったかのように立ち上がり、笑顔で客を迎える。芹沢はそれを見て、俺もいつかはこうならないといけないのだと将来への不安を感じたという。




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