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タクシーの中は異様な空気に包まれている。たまたま彼ら5人ーースーツ姿の男2人とワンピースの女、学ランの男子中学生、ブレザーの女子高生というよくわからない組み合わせであるーーを乗せた運転手も、彼らの醸し出す淀んだ空気にどう声を掛けたものかと頭を悩ませている。あまりの居心地の悪さに高速道路を時速120kmで駆け抜けて、両側に田んぼばかりが広がるどこまでもまっすぐな道を抜け、やがて小さな寺の前で止まる。


「1万6500円です」


手短に金額だけ伝えると金髪の男が支払ったので、そのまま全員を下ろし、扉を閉めると男は逃げるようにその場を離れた。ーー何か恐ろしいものを乗せていたわけでもないのに、体が震えるほどに寒く感じられた。


「ここで、あってるよね?よかった。じゃあ行こう?」


一方でタクシーを降りた5人ーー正確には4人と2悪霊であるーーは、淀んだ空気をそのままに寺の奥、集団墓地の隅を歩いていた。ここまでなまえ以外の誰も言葉を発することはなく、ただ女子高生の形をした悪霊に警戒心を向けている。墓参りをして成仏するにはあまりにも強い悪意がその場に充満していた。やがてその女子高生は一つの暮石の前で立ち止まる。ここで初めて、なまえ以外の3人は彼女の声を聞いた。


「ーーお母さん…」


悪霊の口から出てきたとは思えない、透き通った女の声だった。たとえそこに暗い悪意が充満していたとしても、その声からはその感情が少しも感じられない。それにモブや芹沢は少しだけ驚いたように目を見開いた。


「…芹沢さん。爪の幹部ってことはきっと強力な超能力者ですよね」
「え?あ、うん、どうだろう…超能力は使えるけど…」
「除霊もできますよね」
「た、たぶん…」
「彼女を、除霊してもらえますか?」


なまえはまっすぐと芹沢を見ていた。戸惑ったように芹沢は頷くと、なおもただそこに立っている女子高生の霊に向けて右手を伸ばす。


す、と黒い煙が立ち昇って、開けたこの墓地の青い空に吸い込まれるように溶けてゆく。女子高生は何も言わずに佇んでいる。


「これで、お母様のもとにいけるかしら?」


なまえが問いかけると、女子高生は振り返った。
ーー綺麗な女の子だった。まっすぐな黒髪を揺らして、柔らかな唇が笑みをかたどっていた。


「うん。これで、恥ずかしいことなんてなにもない…ありがとう。だれも、傷つけないで済んだ…やっとーー」


そうして透き通った笑顔を向けて、風に溶けた。
その表情が強く、5人の記憶へ焼きついた。


「彼女は」


なまえは彼女のいた方を見つめたまま呟く。


「病気で亡くなった母親の望んだように、高校を卒業したかったんです。でも苛めにあって、耐えられなくて自殺してしまった。死んでしまってからは母親のことも忘れて復讐のために力をつけていたけれど、突然思い出してしまった。自分がこんな思いをしながら高校に自殺する前日まで通っていた理由のことを。けれど悪霊になってしまった彼女は自分では自分のことを止められない。ーーだから、少しだけ手伝ってあげたんです。大好きなお母さんのところへ、胸を張って会いにいけるように」


力になれたと思いますか?
そう尋ねるまっすぐな眼差しに引き込まれるようだ、と芹沢は思って。


「俺たちだけなら、何も知らずにあの場で除霊してたと思います。あの子は、みょうじ、さんに、出会えてよかったんじゃないかな…」


気づけばそう返していて。そして、なまえはそれに、泣きそうな顔で笑っていた。黒い瞳が、黒曜のように太陽を反射して煌めいていた。




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