◇1
しん、と静まりかえる部屋に一人。
粗方荷物はまとめた。他はもう置いていこう。持って行ったところで必要としない。
思い出は、いらない。
「朔ちゃんどう?まとまった?」
「うん、これだけ持っていくことにした」
「これだけってあんた、鞄一つしかないじゃない」
「本当だ。朔ちゃん、まだ時間あるしまとめるの大変そうなら私たちも手伝うよ?」
「花、京子ありがとう。でもいいんだ。これしか持っていかない」
一通りの衣類と化粧品とか本当に必要なものだけ。
それだけでいいという私を二人は微妙な顔をして見てくるけど、これ以上増やすつもりはない。
あの人にもらったものは全部置いていく。
それでいい。
「……本当に何も言わず行くつもりなのね」
ふと呟いた花にただ、笑む。
「後悔、しないわけ?」
「さぁ。でもそれは過ぎてからじゃなきゃわからないよ。だって、後悔ってそういうものでしょ?」
「でも、せめてつっくんにだけでも…」
「言わない。それじゃあ意味がないもの」
沢田に伝えてしまったらあの人にも伝わってしまうから。
言わないでといえば平気かもしれないけど、沢田は優しいから。
「…っし。じゃあ、そろそろ行きますか」
「新しいところ着いたらあたしたちにぐらい連絡しなさいよ?」
「そうだよ!私たち待ってるから!来なかったら怒るからね?」
「わかりました。二人にはお世話になったし必ず連絡します」
「破ったら探し出しておごらせるからよろしく!」
「うわっ、絶対連絡するわ」
「ふふふっ、約束だよ。朔ちゃん」
「…うん」
三人笑いあって部屋を出る。
最後に少し振り返って。
「……さよなら」
カチャン、と鍵を閉めた。
さよなら、愛しい人
ここにはもう戻らない
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