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「別れよ」





突然の言葉に喉がヒュッと鳴った気がした。


「…なんで?」

昨日も一緒にいたし朝から変わり映えもなかったのになんで?
そう全部を含めた意味で聞けばただ、ただ、「もう飽きたんやお前のこと」とだけ言う彼。
いつもの目とは違う、まるでもう本当に興味がなくなったように冷めた目が私を射抜く。



「それにな、好きな人できてん」

「好きな人?」

「あぁ、みちるが好きなんや」

「せやから別れよ」



“みちる”
それは、一週間前に転校してきた女子で瞬く間に学校中の男子を魅了した美少女の名前。
周りが惚れていくなか、全然変わらなかった彼までもが堕ちたのか。



「なぁ、話聞いてるん?」

何も返事しない私に少し苛立ちを含めた声色に少し怯む。

「あ、ああ、ごめん聞いてる。うんわかった別れたるわ」


焦って返事した私をなんとも思うことなく、彼は安心したように笑って「ほな」と言って校舎へと歩いていく
以前までの彼は嘘だったんじゃないか、夢だったんじゃないかというくらいあっさりと去っていく、背中。







「くらー!どこ行ってたのー?探したんだか
ら!」


そんな声が聞こえて顔を向ければ、彼の腕に絡みついて笑う彼女が見えた。
ふわふわの、誰もが可愛いというであろう美少女と笑う彼が見えた。



「すまんなぁ、ちょっと用事があってん。もう終わったから一緒に教室戻ろか」

「うん!あ、今日お昼一緒に食べよー?」

「ええで。今日は二人だけで食べよ」

「ほんと?うれしい!」


ふふっと笑う彼女が一瞬こちらを見て、彼に向ける笑顔とは別の…勝ち誇ったような顔で笑った、気がした。




「っ、」


顔をおさえてうずくまる。
二人の笑い声。去っていく足音。授業を知らせるチャイムが鳴って、この空間には完全に一人。









「っ、ふっ、く、、はっ、ははっ、あはははははっ」


こみ上げてくる笑い声を抑えることができなくて、どんどん溢れてくる。
終わった。別れた。やっと、やっと、彼との関係が終わったのだ。
これでもう怯えることも気を張り続けることもしなくていいんだ。
他の男子と喋っても男子教諭と話しても友達と遊びに行ってももう怒られたり殴られたりしなくて済むんだ。
愛してるからと強要されることもないんだ。
痛いだけの行為に泣くこともないんだ。



やっと、自由になるんだ。





「ありがとう、みちるちゃん。ありがとう」


これから思う存分彼の愛を独り占めしてくれ。
君の理想の彼とは違うだろうけど。
君の求めていた“白石蔵ノ介”ではないだろうけど。


いっぱい、いっぱい愛されればいいよ。












後日見かけた彼女は夏だというのに不自然にカーディガンを羽織っていて、それでもなお彼の横で幸せそうな顔をしていた。

(…なんや、お似合いやんな)


嘲笑とともにチクリ、とした痛みには気付かないフリをした。








クレマチスは枯れて
(やっと私は自由になった、はず)


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