◇1
お昼休み。
賑わう教室、食堂をやめて静かな中庭でお弁当を広げる。
「うわー、朔のお弁当相変わらず美味しそうだなー!」
「はは、大半お母さんだけどねー」
「でも自分でもどれか作ってるんでしょ?ねね、どれどれ?」
「んー、厚焼き玉子だけど」
「うしゃ!もーらい!」
「あ、こら!」
わーいなんて子供みたいにはしゃぐ加奈に思わず怒るが、いつものことだなぁ…と思い直してため息。
その代わりにと加奈のお弁当から唐揚げを1つ奪った。
「あ!お気に入りがー!!」
「ふふん、おあいこですー」
お互いにちょっと睨み合って最後に笑う。
これもいつも通り。
この日常が、好き。
「ねぇねぇ、今日もさーテニス部見に行かない?」
ふと、始まる会話。
テニス部の話もいつもと同じで。
「んー……今日は用事あるからいかなーい」
「えー!?わたしの誘い断るほどの用事なの!?」
「え、うん」
「ひど!そんなあっさりと!」
「あはは、ごめーん」
もう、いいよ!なんて膨れっ面する加奈の頬をつつく。
そうすれば加奈の機嫌が直ることは承知済み。
だって、1年からのお付き合いだからね。
けど、今日はなぜか笑顔にならず少し俯いてしまった。
「…加奈?どうしたの?そんなに一緒に行きたかった?」
「……この間!自分からジャッカルくんに話しかけられたんだ!…と言っても、がんばってとかしか言えなかったけど…」
「おー!でも話せたならよかったじゃん!教室来たときももっと話しかければいいのにー丸井が邪魔だけど」
「そんな、無理無理!でもね、ジャッカルくんね、ありがとうって笑ってくれたの。すごくすごく優しくてね、嫌な顔1つせずにいつも応援ありがとなって言ってくれて、周りにとても気を配ってて本当に本当に優しくてね」
「うん、うん。本当に加奈はジャッカル好きなんだねー…」
「うん、大好き。すっごい好き」
「そっかぁ……ジャッカルは幸せものだね」
「……そう、なのかな…そうだといいなぁ……ジャッカルくんはとても、優しいからなぁ…」
「…加奈?」
「ううん、なんでもない!さぁ、たくさんジャッカルくんの話もできたしそろそろ戻ろっか!」
「あぁ、うん。そうだね、次の授業の準備しなくちゃ」
一瞬、暗くなった気がした加奈はそれが思い違いであったかのようにパッと笑ってさぁ、行くぞー!なんて片したお弁当を持って歩き出した。
「ちょ、加奈早い!」
「あはは、朔はーやくー!!」
「あー…なんで用事あるときに限って忘れ物とかするかなぁ…」
放課後、母に食材の買い出しを頼まれているのに見事宿題を忘れるミスをした。
教室に戻ってみても人気はなく、もう皆部活へ向かったのだろう。
「宿題宿題……あった、これだ」
机のなかを探ってノートに挟み込まれていたプリントを取り出す。
数学なんてやりたくないが、やらなきゃやらないで怒られるなら分からなくても答えを埋めるしかない。
滅べ数学。
「あれ、田中?」
開きっぱなしだった扉の先から声が聞こえ、振り向けばジャッカルがいた。
「ジャッカルどうしたの?今部活中でしょ?てか、クラス違うし」
きょとんとすれば向こうは苦笑いをして「ブン太の忘れ物をちょっとな…」と言った。
「え、ジャッカルそんなことまで世話してんの?」
「いつもじゃねぇよ。宿題のプリント忘れたらしいんだが、今ちょうどあいつ試合中で取りに行けないから頼まれてよ……田中はどうしたんだ?」
「あー…私も同じ理由で戻ってきた」
「なんだ、同じか」
「自分で取りにきたから丸井よりはましですー」
「はは、そうだな」
少しふてくされた顔をして言い返せばジャッカルは笑って同意してくれた。
これが丸井なら更に言い返されるな。絶対。
こんな風に話せるのも同じクラスである丸井の所へジャッカルが来ては、私にケンカを振ってくる丸井の代わりに謝ってくれるからだろう。
「…今日は田中はテニス見に来ないのか?」
「ん?うん。お母さんに買い物頼まれてるからねーこのまま帰るよ。あ、でも加奈は見に行ってるからよろしく言っといてー」
「そうか……吉田はいつも来て応援してくれてて、なんか俺なんかにもったいないなぁって思ってるよ」
「俺なんかってなにさー。加奈めっちゃジャッカルのこと褒めてたよ?ジャッカルだってテニス部でレギュラーやってんだからもっと自信もってよ」
「……田中は?」
「え?」
「田中はどう思う?レギュラーとしてじゃなくて」
「…気遣い屋のいいやつだなぁって思ってるよ。丸井のお世話大変そうとか」
「……俺そんなにあいつの世話してるか?」
「めっちゃ」
思わず強く頷くとジャッカルは今までのことを思い返しているのか、また苦笑した。
あ、この笑い方す……、
「、部活そろそろ戻らなきゃじゃない?」
「……そうだな、そろそろ戻らなきゃ真田の怒られちまう。田中気をつけて帰れよ」
「ありがとー。ジャッカルは部活がんばって」
「おう、ありがとな!じゃあな!」
「ばいばーい」
爽やかに走り去っていくジャッカル。
きちんと私にも気をつけてなんて気遣って、本当に優しい。
これから部活に戻って丸井にプリント渡してテニスがんばって、きっと、加奈もがんばって応援して。
「……ばいばーい、」
私は、そこにはいかないよ。
ばいばい。
トリガーを引けない僕ら
(ジャッカルくんに好きな人がいるのは知ってる。でも応援できない。だって、私まだそこまで大人じゃない)
(吉田の気持ちはすごく伝わってくる。けど、それに答えることはきっとできない。だって、俺はあいつが)
(加奈の語るジャッカルとたまに話すジャッカルを気になってきてる。けど、誰にも言わない。だって、それ以上に加奈が大事で)
(((何も言えない僕らは今日も引き金から手をおろす)))
title :
片言様
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