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夢を見た。

犬がいた。
千種がいた。

彼女が、いた。




「ちょっとケンケン!部屋片付けてって言ったじゃない!なんでさっきより荒れてるのよ!?」

「ウッセェぴょん!!お前の言うことなんか誰が聞くか!」

「あぁそう。そういう口聞く子にはご飯あげないから!」

「おまっ!それずるいびょん!!」


彼女と犬はよく喧嘩していた。
それはもちろん本気な訳じゃなく、犬もどこか楽しそうで。



「朔。人参の皮むけたよ。あと、じゃがいもも」

「ありがとうちーちゃん!ケンケンとは大違いね〜」

「犬と一緒にされても困るから」

「それもそうね」

「お前らひどいぴょん!!!」


千種も分りづらい態度ではあるが、彼女を慕っていた。
それは妙な呼び名をいともしないほどに。


彼女の周りはいつも暖かくて、そんな暖かさを僕たちは知らなくて、どうしていいかわからなくなる。


「朔」

「お、どしたの骸?」

「呼んでみただけです」

「…そっか。うんいいよ。呼びたい時はいっぱい呼んで。寂しい時とか辛い時とか、呼ばれたらそばにいてあげるからね」


ニヒッと変な笑い方をして彼女は、僕たちをまとめて抱きしめた。
犬は慌てて、千種は固まって、僕は…抵抗もせずその腕に身を預けた。
なぜこんなにも暖かいのだろう。
なぜこんなにも優しいのだろう。
なぜこんなにも泣きたくなるのだろう。




「骸、犬、千種。だぁいすきよ……」





あぁ、なんて優しい。
なんて、切ない。
なんて………







夢を見た。
犬と千種と
遥と
四人で暮らす夢。

遠い記憶と化した淡い夢。



もう、会えない彼女の


陽だまりのような夢を見た。







夢を見た
(なんて叶わない切ない夢なのだろう)



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