◇1
夢を見た。
犬がいた。
千種がいた。
彼女が、いた。
「ちょっとケンケン!部屋片付けてって言ったじゃない!なんでさっきより荒れてるのよ!?」
「ウッセェぴょん!!お前の言うことなんか誰が聞くか!」
「あぁそう。そういう口聞く子にはご飯あげないから!」
「おまっ!それずるいびょん!!」
彼女と犬はよく喧嘩していた。
それはもちろん本気な訳じゃなく、犬もどこか楽しそうで。
「朔。人参の皮むけたよ。あと、じゃがいもも」
「ありがとうちーちゃん!ケンケンとは大違いね〜」
「犬と一緒にされても困るから」
「それもそうね」
「お前らひどいぴょん!!!」
千種も分りづらい態度ではあるが、彼女を慕っていた。
それは妙な呼び名をいともしないほどに。
彼女の周りはいつも暖かくて、そんな暖かさを僕たちは知らなくて、どうしていいかわからなくなる。
「朔」
「お、どしたの骸?」
「呼んでみただけです」
「…そっか。うんいいよ。呼びたい時はいっぱい呼んで。寂しい時とか辛い時とか、呼ばれたらそばにいてあげるからね」
ニヒッと変な笑い方をして彼女は、僕たちをまとめて抱きしめた。
犬は慌てて、千種は固まって、僕は…抵抗もせずその腕に身を預けた。
なぜこんなにも暖かいのだろう。
なぜこんなにも優しいのだろう。
なぜこんなにも泣きたくなるのだろう。
「骸、犬、千種。だぁいすきよ……」
あぁ、なんて優しい。
なんて、切ない。
なんて………
夢を見た。
犬と千種と
遥と
四人で暮らす夢。
遠い記憶と化した淡い夢。
もう、会えない彼女の
陽だまりのような夢を見た。
夢を見た
(なんて叶わない切ない夢なのだろう)
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