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こうして今年の体育祭は幕を閉じた。

なまえは3学年共全ての結果の予想を的中させ、今回の体育祭もトップの成績を収めた。

経営科としての体育祭の成績は、体育祭自体のように放送されたり表彰されたりするものではないが
それなりにバタバタと対応に追われていたら
すっかり遅くなってしまった。

それにしても


今日見た緑谷くんも轟くんも爆豪くんも。

(真っ直ぐなんだよなあ。)


そして弔も。

方向性は違っているけど。

ヒーローという存在は、彼らにとってそれほど大きな存在なんだと実感する。


私はそんな弔に着いていくだけだ。


そんなことをぼんやりと考えていたら、
向こうからきた人物にぶつかってしまった。






「わっ…とと!!ご、ごめんなさい!あ…」

「いや、俺もよそ見しててわりぃ。」





なまえとぶつかったその人物は




「轟くん…だよね?体育祭で見たよ。2位、惜しかったね。でも、とってもすごかった!」

「あんた確か3年のみょうじ先輩…だったか?」

「あれ、名前知っててくれたの?」

「クラスでさっき話題になってた。経営科で今回の体育祭の結果全部当てた3年がいるって。」

まあ、話題になっていたのは、クラスメイト曰くその先輩が綺麗だとか美人だとかそんなくだらない話だったが
確かに目の前にいる彼女はとても整った顔をしていた。

「あのさ、アンタはどうして俺を2位だと思ったんだ?」


別にわざわざ話を広げなくても良かったのに、どうしても聞かずにはいられなかった。


「へ?えっとそうだなあ…」

突然の質問に一瞬戸惑ったようだったが言葉を続けた。

「轟くんのデータは元々見てたし、
轟くんの個性が半冷半燃なのは知ってるから、
炎は使いたくない何か理由があるのかなと思って。

だって本来なら力を両方使った方が強いに決まってるし。」

「…」

「もしその理由が吹っ切れるきっかけがあるなら轟くん、優勝もありかなとは思ったよ。緑谷くんとの試合の時みたいに。
でも、決勝でつかうのやめてたもんね。」

特に躊躇うことなくそう言う彼女に、
何故か自然と話を続けてしまう。
初対面の人間にこんなことを話すなんてどうかしてるなんて分かっていたが
とめられなかった。




「どうしていいかわかんなくなっちまったんだ。
アイツのせいで、お母さんは、俺はどれだけ苦しんだか。
だから戦いで炎は使わない。そう決めていたのに
今日緑谷と戦って、炎を使っちまって、
そしたらそん時、親父のこと忘れてたんだ。
俺が都合よく解釈してこれからも炎を使うようになったとして
お母さんは俺のことどう思うだろうって。」


だから精算しなくてはいけない。
でもまた拒絶されたら。
と思ったら後一歩が踏み出せない。


「あのさ、轟くん。」



しばらく黙って聞いていたみょうじ先輩は、こう続けた。

「血の繋がりってそんな簡単なものじゃないよ。」

「え?」

「血縁って、どんなに憎くても苦しくても普通は自分じゃどうしようもないんだよ。
だからそれに対してなにか行動出来るってすごい事だし、迷っちゃって当然だよね。」


わたしは1人じゃ出来なかったから。


そうぽつりと付け足すみょうじ先輩。


「それって…」

先輩は家族と何があったんだよ。そう聞こうとした前に遮られた。



「まあ逆も然りかもね。轟くんのお母さん、轟くんのこととっくに許してるんじゃないかなあ。」


違ったらごめん。と少し困りながら笑うみょうじ先輩。
こんな風に自分の戸惑いを肯定されたのは初めてだった。

「ちゃんとお母さんと話してみたら?轟くんなら出来ると思うよ。」




じゃあねと手を振りながら去っていく姿から視線をしばらく外せない。



「なんだよそれ…」


でも、確かに前に進む勇気をもらった。
明日、ちゃんと話そう。

俺が俺のヒーロー目指すために。