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弔とステインの接触後、ステインは逮捕された。
しかしその影響力は絶大で、連日の報道の1面はステインの話題で持ち切りだった。

先生の思惑通り、ステインと弔を仲間だと思う者が

『あのステインと同志』
である死柄木弔の元に仲間になりたいと続々と集まっていた。


しかし、当の本人は、ステインにしか目がいかず注目されない今の状況に
不満を募らせるばかりで
上手くいかないことの苛立ちをぶつけるかのように
連日、なまえの意志とは関係なくなまえを無理矢理抱いていた。


今日も目覚めたら隣に弔の姿はない。

「はぁ…」

思わずため息が出る。
いつもとは違って乱暴に傷つけられた跡が痛んだ。

体を起こすのもしんどいが、今日は期末テスト最終日。休む訳にはいかない。

なまえは重い体にむち打ちながら、
制服を着て、学校に向かった。






そして
合図がなり、試験終了の時間が訪れる。



(やっと終わった…)


なんとか無事テストを終えたなまえの体は限界を迎えていた。


「やっと試験終わったね!
あれ?なまえちゃん?」

「顔色悪いよ?!大丈夫?!」


平気だと答える前になまえの意識が遠のく。




ガタンッッッッ!!!


ふらつき、そのまま机にぶつかり大きな音をたてて、
なまえの身体は傾き、そのまま床に倒れる。




「「なまえちゃん!!!!」」
「「みょうじ!!!!」」

その声を頭の片隅に聞きながらなまえは意識を失った。








なまえが目が覚めると真っ白な天井が目に入る。
状況を理解するためにゆっくりと起き上がった。

(私…)
倒れて医務室に運ばれたんだ。

ここ数日殆ど睡眠時間もなく、食事も喉が通らず過ごしていた。
倒れてしまうのも無理もない。




でも。




それ以上に心が苦しい。





先生から今の弔の状況や意図は伝えられていたし、弔の自分に対する行動も苛立ちから来るものだと理解している。

そもそも彼に出会うより前、
愛のない行為に対して
それはただの作業だと思い何の感情もわかなかった。
その期間のが長いから
全然自分は大丈夫。
そう自分に言い聞かせたのに。


弔にただ無言で無理矢理されて、これはこんなにも悲しいことだと気が付いた。

弔に出会って、いつの間にか、こんなにも弱くなってしまった。



「…っ…ふ…っ…」

なまえの頬にぽたりぽたりと涙が落ちる。

「〜〜っ…うぇ………」
1度溢れた涙はとどまることを知らない。
嗚咽を漏らしながらしばらく泣き続ける。



この時、なまえは自分以外にもこの医務室で寝ている人間がいることに気がついていなかった。





「るせぇ…」


「…?」

誰もいないと思っていたなまえは思わず隣のベットを見る。そこには




「ば、爆豪くん?!」

人がいたとは想定外で思わず涙が引っこんでしまう。


「あァ?つかなんで俺の名前知ってんだよ。」

「へ?うちの学校で爆豪くんのこと知らない人、あんまりいないと思う…よ?

あ、私はみょうじなまえ。経営科の3年です。」



「ふーん。で?みょうじ先輩、
んでこんなとこでメソメソ泣いてやがる。」


「(!!意外と優しいんだな)
えっと…悲しいことがありまして…思わず泣いてしまいました…
ごめんね、怪我して寝てたんだよね。

爆豪くんは?
はっ!!!もしや乱闘でもした!?」

「なわけねーわ!!!
期末だよ実技の。そこで怪我しただけだ!!」

「ひぇー…
ヒーロー科の実技試験って医務室運ばれるくらい過酷なんだね
無事合格できそ?」

「たりめーだ、誰に向かって聞いてんだ!」

「そっか。」

爆豪と話していて少し気分が晴れたのか、久しぶりに笑顔になるなまえ。


(さっきまでこの世の終わりみてーな顔してたのに
んだよちゃんと笑えるじゃねえか)



その笑顔に一瞬見とれてしまう。



「爆豪くん!ありがとう!なんか元気出た!さすがヒーロー志望!」

「あァ?!!!なんだよ突然!」



「ねえ、爆豪くんちょっと目瞑って?」


「ハァ?!」

「いーからいーから!」

元気をくれたお礼だよ。そう心の中で呟き
何だかんだ大人しく目を閉じた爆豪の傷を、こっそり個性を使って治す。

「よし!いーよ!」

最後に爆豪の頭をぽんぽんと撫でた。

「ガキ扱いすんじゃねぇ!!」

「ふふふ、じゃあね、爆豪くん。」

「あ、おい!!!」

そう言って彼女は医務室から出ていった。


「クソっなんなんだよアイツ…」


しかし、爆豪を取り巻く感情は不思議と嫌なものではなかった。


しばらくして爆豪も教室に戻る。


「かっちゃん!!!もう大丈夫?!って
あれ…?」

「んだよクソデク!!喋りかけんな!」

(なんでかっちゃん、1つも傷残ってないんだろ…?)




一方なまえが教室に戻ると、

心配そうにしていた友人が2人、彼女を待っていた。

「「なまえちゃん!!」」

「ごめんね、二人とも。なんかテスト勉強頑張りすぎたみたい。少し寝たら回復したよ。もう大丈夫。」

「本当に?」

「心配したよ…連絡もつかないし…」


「あ、そういえばね、倒れた時画面割れて電源つかなくなっちゃったみたい。
明日休みだし木椰のモールに入ってるショップで替えてこないと。」

「じゃあ私もいく!!
というかなまえちゃんお家帰ってもお母さん入院してるし一人ぼっちだよね?」

「え?あ、うん(そう言えばそんな設定だったな)」

「1人じゃまた倒れたりしないか心配だよ!
今日私の家お父さんもお母さんもいないからみんなでうちの家にお泊まりしよ!」

「え?!」

「賛成!賛成!私もいく!」


こんな日があってもいいか。と思うなまえ。

「じゃあそうしよっか。」

「「やったーー!!!」」