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黒霧の元に非表示の番号から電話がかかってきて、それを不審に思いながら電話に出ると
そこから聞こえてくるのは
普段ならとっくに戻ってきているみょうじなまえの声だった。

「みょうじなまえ…?
どうなされたのですか?」

「あ、もしもし黒霧?
今日はそっちに戻りません。
あとスマホ壊れちゃったから買い替えるまで連絡取れません。
明日は学校休みだけど出かけるからしばらくいません。
って弔に伝えておいて!
あ!公衆電話だからもう時間ないや、
じゃあよろしくね黒霧。」

がちゃり。ツーツーツー。

一方的に切れてしまった。


自分で本人に言え…と思ったが、
最近2人の間に微妙な空気が流れていることは分かっていたし
大方の原因は死柄木弔の方にあると黒霧には分かっていたため、今は話したくないなまえの気持ちも理解出来る。

なのでそっくりそのまま張本人に伝えると、
一瞬フリーズしたかと思ったら
フラフラと無言でバーを出ていってしまった。

やれやれ、まったく手のかかる。

そう思わざるを得ない黒霧だった。









初めての拒絶だった。
なまえに出会ってから、はっきりと自分の元に戻らないと言われたのは。

「なんなんだよ…」

原因は分かっている。
悪いのは自分だということも。

ステインの一件に続き、昨日はそのステインに感化されたとかいう
餓鬼と礼儀知らずが仲間にしてほしいとかやってきた。

そのせいでさらにイラつき、昨晩はいつも以上に手酷く抱いてしまった。
いや、昨晩だけではない、ここ数日は
なまえの意思など関係なく自分本位に体を重ねてしまった。

なまえは抵抗こそしなかったし、
その間、一言も言葉を交わさず、ただただその行為を受け入れていた。

しかし、意識が途切れる前に見せた悲しそうな、寂しそうな、今にも泣き出しそうな彼女の顔を思い出してしまう。

自分が触れても唯一壊れない、全てを受け入れて愛してくれる特別な存在。
何をしても許してくれると、自分の元から離れていくわけがないと過信していた。

このままなまえが自分の元にこのまま戻ってこなかったら…?


なまえが自分じゃない人間のモノになる…?
想像しただけで気が狂いそうだ。


「だめだ…なまえ…」

なまえの笑顔が見たい。名前を呼ばれたい。好きと言われたい。自分しかいないと言われたい。


俺はなまえを取り戻すために何をすればいい?






明確な答えが見つからないまま次の日
木椰のショッピングモールを目的もなく歩く。

この前のヒーロー殺しのこと、なまえのこと、色々なことが脳内を巡る。

そして、ヘラヘラと笑いながら平和ボケした人ゴミの中で見つけた
緑谷出久。前から鬱陶しいと感じている
この男と話すことによって


不本意だが全て解決してしまった。
というか、
元からそうだったんだ。
何を迷っていたんだ俺は。

オールマイトがいない世界を創り
正義とやらがどれだけ脆弱かを暴いてやろう。


今日からそれを信念と呼ぼう。

これからの行動は全てそれに繋がる。


この信念こそが俺となまえが2人で生きていく最良の選択だ。

俺にはなまえが必要だ。なまえもそうだろ?


だから、早く。
早く俺の元に戻ってきて。
俺の愛しいなまえ。