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『どんな効果が出るかは食べてみてのお楽しみ!!』

「…」
なまえはその如何にも怪しげなパッケージの言葉を見て思わず絶句した。

弔曰く、これは最近、裏社会の娯楽の一環として流行っている食べるまでなにが起こるかわからない飴らしい。


「絶対にやだからね」

「は?なんで?面白そうじゃん」

「どこが?!?」

こういうのは大抵、媚薬成分が入っているとかそういう類の個性が含まれているとか、とにかくそんな感じである確率が高い。
現れる効果のパターンは何個かあると書いているが絶対全部そんな感じに決まってる。

それを知ってて弔はこれを持ち出しているはずだ。


「人体には影響にないって書いてあるし。」

そういう問題じゃない。


変な成分を口にして身体に異変が起こるのも嫌だし
何かの個性がこれに培養されていた場合、なまえにだけ効果がないのもそれはそれで面倒だった。

「ほらなまえ口開けて」

「やーーーだ!!……んむむッ…」

強引に口の中に飴を入れられ驚いた瞬間それを飲み込んでしまう。

なまえがそれを飲み込んだのを確認した後
弔も楽しそうに自分もそれを口に含んだ。


「…?」

ポンっと音を立てなまえの視界が真っ白になる。
しかし特になまえの身体に異変はない。

やっぱり何かの個性が影響しているのだろう。


「だ、大丈夫?」
まだぼやけていている視界の中、弔に声を掛ける。が、反応はない。


そこでなまえはとんでもないことに気がついてしまう。


「っ?!弔、身体が小さくなってる!!」

視界が開けたと思ったら、目の前にいたはずの弔の代わりに、小さな少年がそこにはいた。

でも顔が弔なので、この飴は身体を小さくしてしまう個性が含まれているのだろうか。


「弔…?あの…大丈夫?」

なまえの手が彼の肩に触れようとした時だった。





「触るな…っ」

キッと鋭い視線で睨まれる。


「っ…?」

ただ身体が縮んでしまっただけと思っていたなまえは、目の前の彼の純粋な拒絶に頭が真っ白になる。

普通に考えて弔が自分をこんな風に拒否するとは思えない。

もしかして、これは

(弔、本当に小さい頃に戻っちゃったの?!)



ということはこの少年の姿の弔は自分のことを知らなくて当然だ。


だから大丈夫、嫌われた拒まれた訳じゃない。となまえは自身を落ち着かせる。


「…ごめんね、びっくりさせちゃったよね。私はその…みょうじなまえって言うんだ。」

怪しいと思って怖がらせないように、まずは名乗る。

よく見ると彼の顔からは血が流れていた。
今、この傷を治すことに意味があるかも影響があるかもなまえには分からなかったけれど、そのままになんて出来なくて。

「ケガ…治させて?」

しゃがんで目線を低くして頼んだ。

「……」

返事はなかったが、先程のような拒絶はない。
なまえはそっと傷に手をかざした。

「よし!これで平気!」

「なんで、」

「なんでかぁ…うーん、放っておけないからなあ。」


私はあなたのことが大好きで、世界一で1番大事だから、
なんてまさか言えるわけがないけれど。




「あのね、きっと大丈夫。大丈夫だよ」

君は私と出会うし、
私は君と出会う。

それまで、どんなに苦しいことがあっても、これだけは変わらない未来だから。

「…名前、」

「うん?」

「志村転弧」

「そっかあ」


最初と同じように視界が白くなる。



「…転弧くん、…ッまたきっと私たち会えるから…ッ」





最後にそう伝えると彼は元の大人の姿にもどった。






「弔?戻った?」

「?何が?」

子供の頃に戻ってしまったこの数分間のことは記憶にないらしい。

「ううん。なんでもない」

「?変ななまえ」

このことは秘密にしておこう。

それにしても

(ひょんな事で弔の元々の名前を知ってしまった…!!!!!!!!)

なまえ的には弔は弔なので、今更元の名前が田中太郎であろうが志村転弧であろうが特に問題ではなかったのだが
思いがけない出来事だった。



「にしてもこれ、なんの効果もなかったな」

「うん?ん、そうだね」

パラパラと彼の手の中でパッケージが粉々になる。


「まァ、天気いいし、どこか行く?」

「私、買物したい、洋服とか」

「ハイハイ」




後日

「小さい頃、あんまりはっきりと覚えてないけどなまえみたいな女に1回だけあったことがある気がする」

と言われ、ドキドキしてしまったのは
また別のお話。