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(暗いお話です。苦手な方はご注意ください。)




これは2人が出会う少し前の話。




なまえはまだ少し暗い夜明けの街を1人足早に歩いていた。

時期は8月の半ば、夏真っ盛り。
同級生は夏休みに入る前、家族や友達や最近出来た彼氏とどこかに出かける話をしていた気がする。

そんな楽しそうに話す友人らを羨ましいと思う気持ちすら自分にはなくなってしまったことをなまえはふと思い出した。



何もかも元々が違うのだ。



小さな古いアパートの一室の鍵をあけ小さな声で

「ただいま。」

と言ったが返事はない。


「お母さんいないの?」

と真っ暗な部屋に向かってもう一度声をかけるが、やはり返事はない。


最近出来たなまえとそう歳の変わらない男と別の場所にいるのだろう。


なまえは母子家庭で父親は誰かすら知らない。
母親はかつていわゆる娼婦で、どこの誰とも知らない男との間に出来てしまった子供がなまえだった。




妊娠が発覚した時期が遅くもう産むことしかできなかったらしい。



頼る相手もいない中、子供を育てるのが大変だったのは容易に想像できる。
なまえは物心がついた時から
酒に溺れる母親の姿を見ていた。

そしてある時、なまえが少し成長した頃、母親が身体を売って金を稼いでいたその役目が自分にまわってきたことを知る。


母親に連れられ、そういった専門のブローカーの元に初めて行った日の事を
なまえは鮮明に覚えている。
残念ながら今の世の中、子供や未成年を相手に売春をする商売というものはいくら規制してもなくならない。それだけ需要があるのだ。



その日から今に至るまでなまえは自分の身体を売って自分と母親の生計と
母親がどこかで作った何をしているのかもよく分からない若い男のギャンブルや酒などに注ぎ込む金さえも工面していた。


きっと母親の元から逃げ出す術はいくらでもあったのだろう。



しかしなまえは、ある日泥酔した母親の

「なまえは絶対お母さんを見捨てないもんね」


と泣きながら自分にすがりつく姿が忘れられなかった。


言葉は一種の呪いだ。
この日の言葉はなまえをかたくかたく縛り付けていた。


それでも、少しの抵抗というか、何かが変わればと思ってかはわからないが


絶対にお母さんに迷惑をかけないから。


と頭を下げて、高校の進学を決めた。



進学先は国立雄英高校。
雄英に決めた理由は、家から通えることと、自分で学費を賄うのだからあまりお金をかけずにすむ方がいい。と思ったから。


特にヒーローへの憧れなどなかったし、
テレビに映るヒーローのような個性は持ち合わせていない。
いわゆる無個性。

なまえが在籍するのは雄英高校の経営科だった。



夏休み中のなまえは特に変わらず、むしろ学校に行かない分、時間があるのでその分だけ多く、
名前も知らない大人とセックスして金をもらうだけの時間を過ごしていた。



明日も明後日も数日後も。





きっと変わらない。
そうやってこれまでも生きてきたから。



悲しいとか、苦しいとか、辛いとか、そんな感情にはとっくに蓋をしてしまった。



すっかり明るくなった空を部屋の窓越しに見つめながら
代わり映えしない1日の始まりに
なまえは小さくため息を着いたのだった。