04

きっともう自分は救われない。そう思っていたはずなのに。
その日は突然訪れて
私は差し出された手に無意識に手を伸ばした。








「せっかくの夏休みだし、なまえちゃんもたまには一緒にどこか出かけようよ!」



とクラスメイト達に誘われ、なまえはその日、木椰区のショッピングモールに来ていた。


そういえば、クラスメイトには普段から母親が病気で入院していて、家事を自分でしないといけないし、夏休みはアルバイトもお休みの分忙しくて



とかなんとか言ったような気がする。
クラスメイトとは、特段親しくしている訳でもないが、
上手くやっていると思う。

自分がみんなと同じく普通の家庭で生活しているかのように振る舞えているはずだ。

じゃあなまえちゃんが絶対空いてる日に合わせて出かけよう!


と返され
あっと言う間に出かける予定が出来てしまった。






同級生とショッピングモールで洋服を見たり、ご飯を食べたり。

これまでなまえが1度も経験したことがないことばかりだった。



「なまえちゃん私服姿もかわいい!!」

とか

「なまえちゃんは何のコスメ使ってるの?同じやつ欲しいな〜」

とか

「なまえ、普通科の男の子からもかわいいって評判なんだよ」


などたくさん褒められてどこかむず痒い気持ちになってしまう。

本当にそれはたわいないことだったけれど。

(なんか、普通の高校生って感じだったな。)



その分、これから家に帰るのは憂鬱で。
家にはきっと母親と、母親の男がいるだろうから。



なまえは母親のどこかで作ったこの男がとにかく苦手だった。
興味がないため詳しくは知らないが
ろくに働きもせず自分に金を無心してくる。


その上、母親がいない隙を見て娘のなまえにまで手を出す男。



もしその事を母親に言ったらどうなるんだろう。
発狂して男のことを殺してしまうかな。


なんて結局出来もしないことを考えながえていたらあっという間に家に着いてしまった。








「……?」




いつも通り
玄関の扉を開けた瞬間、部屋は異様な空気に包まれていることに気がつく。

思わず部屋に入ろうとする足が止まってしまった。


なまえはこれからの自身の人生の全てになる男がこの部屋にいることを
まだ、知らなかった。