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「それじゃあ、ユリの入社および事務課への配属を歓迎して!カンパーイ!!」
「カンパーイ!!」
明日香さんの声に続いて、私たちはそれぞれお酒の入ったグラスを掲げ持った。みんなそれぞれお酒は好きらしくて、私以外の全員が生ビールという状況だった。
座敷席に5人でテーブルを囲うようにして、向かい側に十代さんとヨハンさん、こちら側に由季さん、私、明日香さんのといった並びだ。
「…っはー!美味しい!やっぱり金曜の夜といったらコレよね!」
ビールを一気に半分ほどまで飲み干して、ドンッという音付きでジョッキをテーブルに置く明日香さん。そんなイメージが全くなかったので驚いた。私の中でのイメージでは、優雅にワイングラスを傾けていそうだったのに。
「おい明日香、ユリがびっくりしてるだろ」
「いいのよ十代。いずれは知ることになるんだから」
「ははっ、初めて見たヤツは必ずギャップに驚くよな。なぁ、ユリは酒が苦手なのか?」
ヨハンさんが、私が手に持っているカシスオレンジのグラスを指差して尋ねた。
「はい。こういう甘い系のお酒はそこそこ飲めるんですけど…ビールとか焼酎とかはまったく。すぐに顔が赤くなっちゃうんです」
「ふーん…ちょっと見てみたいけどな。酔ったユリ」
「え?!だめです!酒癖もあまりよくないみたいで」
何度か、付き合いで飲まされたことがあるのだけれど、その時の私は目も当てられない行動に走っていたらしい。一体何をしでかしていたのか自分でも恐ろしかった。
「なぁユリ、オレの隣来いよ。会社でも全然話したことなかったし、話そうぜ」
十代さんが自信の隣を指差して行った。
それなら、とヨハンさんが少し位置をずれて、2人の間に間隔を作ってくれる。
2人の間に行けということは分かるのだけれど、イケメン2人に挟まれるなど緊張でしかない。けど今ここで断るのはどう考えても印象が悪いと思った。
「じゃあ、お邪魔します」と言って、私は2人の間に座らせてもらった。右に十代さん、左にヨハンさんという状況。十代さんはニコニコと笑いながら、私の顔を覗き込んだ。
「(ひぃ!2人ともカッコイイ…どうしよ、なんか変な汗かきそう)」
「なぁ、ユリは前はどんな会社にいたんだ?」
「えっと…リポビタンDを毎日飲まなければ生きていけないような会社に…」
「へ?」
「まず定時で帰れたことなんて一度もありませんでした。一応17時半が定時っていう名目だったんですけど、終電を逃すことなんて珍しくなくて。電車で帰れる日があれば、社員一同泣いて喜ぶような状態でした」
話を聞いている私以外の全員が唖然としている。私は今までそんな社会人生活が当たり前になっていたのだから違和感は感じなくなっていたのだけれど、みんなの表情を伺うと、自分がいかに異常な状況下に置かれていたのかがわかる。
「休憩時間なんてあってないようなものでしたし残業代は出ないし、挙句休日出勤を断ろうものなら部長に鬼のように怒鳴られて…日々重くなっていく身体を引きずりながら出社して…それで…」
「もっ…もう分かった!な、ユリ!元気出せよ!今はもう違う会社なんだからさ」
当時のことを思い出しながら話していると、気分が重くなり、どんどん私のトーンが低くなっていく事に気付いた十代さんは慌てて私の話を遮った。
「そっ、そうだよ!ユリちゃんはもう私たちの会社の仲間なんだから。もうそんな思いしなくて済むんだから、安心して。ねっ」
「由季さん…そうですよね、今はもう違うんですもんね…!」
由季さんの優しさに、ぐすっと軽く涙ぐみながら、私は勢いよくお酒を喉に流し込んだ。せっかく歓迎会を開いていただいたというのに、いつまでも暗い雰囲気を醸し出しているわけにもいかない。
「ねぇ、ユリ。私、ユリの恋愛についての方が興味あるわ」
「明日香さん…」
「ユリって可愛いもの。今は?彼氏はいるの?」
「いっ、いいえ。いません」
「意外ね。それじゃ今まで付き合った人は?」
「…えっと…」
私の恋愛話なんて誰も興味ないんじゃないか、と思ったけれど、意外にもみんな興味深そうに私に注目している。
そしてそれと同時に、心にじわりと滲んで浮かび上がった人物の背中があった。
『…悪い、ユリ。オレはお前と一緒にはいられない』
思い出しただけで胸がちくりと疼く。あの時交わした言葉が最後だったように思う。大好きで、いつまでも一緒に居たいと思えた、あのひとのことー。
「…1人だけ、いました」
「そう…きっと大好きだったのね、その人のこと」
明日香さんが私の表情を見ながら優しく微笑んでくれた。私はアルコールのせいでほてり出した頬を片手で軽く抑えて、小さく頷いた。
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