27
「…ぅ…ん」
ひどく頭が痛くて気分が悪い。
目が覚めて、見慣れた天井をぼうっと見つめながら最初に思った事はそれだった。
そしてすぐに隣に誰かがいることに気が付いて、そちらに視線をやる。目の前にあったのは、すやすやと眠るヨハンさんの顔。
まつ毛長いなあ、寝顔まで綺麗だなあ…
…って、そうじゃなくて!!
「…えぇえぇえぇー?!?!?!」
「…ん…もうすこし…寝かせて」
「ちょっ、ヨハンさん、もう少しじゃなくて!」
あまりの衝撃にがばりと身体を起こそうとしたけれど、私の腰に伸びていたヨハンさんの腕がそれを阻止してしまった。そしてぎゅっと私を抱き締めるではないか。
「(何これなにこれなにこれどういう状況?!)」
まさかまさか、やってしまったのか私は。一線を越えてしまったのか。
そう思って自分の姿を確認する。大丈夫だ、ちゃんと服は着てる…って、あれ、会社のスーツのままだ。そういえばヨハンさんもスーツのまま。
「(とりあえず過ちは犯してなさそうだけど…)」
そのままだとやっぱり首回りが窮屈だったのだろう、目の前で眠るヨハンさんのネクタイは緩められていて、ワイシャツのボタンもいくつか外れている。そこから覗く、初めて見た鎖骨につい目を奪われてしまった。
「って変態か私は!!」
「…ユリ…?」
「ヨ、ヨハンさん…あの…」
「起きたのか。…もう朝?」
「はい。朝どころか、もうお昼近い時間ですけど」
「そっか…いい加減起きなきゃな」
緩慢な動作で身体を起こすと、片目を瞑ってもう片目を手で軽くこすっている。
ヨハンさんの起き抜けってこんな感じなのか。なんだか可愛い…。
「ってそうじゃなくて!!」
「?」
「あ、あのあのヨハンさん、どうしてうちに…?というかどうして私の隣で寝ているんですか…?それになんでスーツ着たまま…」
「はは、やっぱり覚えてないか」
ヨハンさんは「んーっ」と伸びをすると、困ったように笑った。
「昨日の夜、ユリがオレに連絡くれたんだよ。だから会いに行ったら、ユリが公園で寝てたわけ」
「寝てた?…こ、公園で…?」
「そ。それで家まで送って帰ろうとしたら、帰らないでって泣き出すから。帰るに帰れなくて」
「……それから…?」
「少しだけいるからって話で上がらせてもらったんだけど、結局はそのまま寝ちまったって感じかな」
「…………」
なんという失態。しかもよりにもよってヨハンさんの前で。
そうだ、昨日は明日香さんと由季さんと居酒屋で飲んだあと、由季さんがタクシーを呼んでくれて、それで自宅まで乗せてもらった…ような気がする。
そのあとの記憶が全くない。
ヨハンさんの話から整理するに、家の前からわざわざ歩いて公園に向かって、ヨハンさんに連絡をして、そのあとそこで寝てたってことになる。
その上で「帰らないでくれ」と泣きじゃくり、困るヨハンさんを無理やり引き止めたって事だろう。酔っていたとはいえ自分の愚行に頭を抱えたくなる。
「……私、最低ですね…本当にすみません、ご迷惑をおかけして…もはや謝罪で済む話ではないですが……」
「謝らなくていい。むしろ嬉しかったよ、ユリがオレを頼ってくれてさ」
「え…?」
「言ったろ。困ってたり助けが必要なら、力になりたいって」
「…はい…」
そうだった。確かに彼はそう言ってくれた。
「オレ以外の奴の前であんな行動取られても困るし。だから気にするなよ」
「……でも、せめて何かお礼をさせて欲しいです…そうしないと罪悪感で押し潰されそう」
「そ、そんなにか?うーん、そうだな…じゃあ」
「え…?」
何か少し考えたかと思うと、ヨハンさんはお互いの身体にかかっていた布団を軽くよけ、ゆるく私を抱き寄せた。
「っ?!」
「…これでいいよ。お礼」
耳元で掠れた声で囁かれて、胸がきゅんとする。急に全身が熱くなって、彼の腕の中で動けなくなってしまった。
「すごくドキドキしてるな…って、オレもだけどさ」
そう言って照れたように笑っている。
背中と腰に回された手にぎゅっと力を込められて、思考回路が停止してしまいそうだ。
「あ、あの…ヨハンさん、恥ずかしい…です…」
「ん…ごめん、オレも」
「でも、もう少しだけいいか?」と呟くように言われて、私はやっとの思いで小さく頷いた。
恥ずかしさでいっぱいで、緊張でいっぱいで。でもヨハンさんの腕の中にいられることが嬉しくて、体温を感じられることが嬉しくて。
おずおずと彼の背中に腕を回すと、それに応えるように、耳元でヨハンさんが小さく微笑む気配を感じた。
1/48
prev next△